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「夏季休暇と企業統治」 VOL300

 初秋(9月)に入り、ようやく暑さを凌げるようになりました。
 もっとも、年々開花が遅くなっている拙宅の百日紅(サルスベリ)はまだ花を咲かせています。
 夏季休暇で行った能登半島には、この木を街路樹として植えているところがあり整然と並んだ数百本の百日紅の花が一斉に咲いていたのは壮観でした。
 そこに木を植えたのは人ですが、枝を張り、見事な花を咲かせた自然の力に偽りはありません。
 ところが、最先端のシステムを整えていたはずなのに、全く役に立たなかったのが、今回の東芝の不祥事です。
 東芝といえば、日本を代表する総合電機メーカーですが、会社法の委員会設置会社に移行したり、複数の社外取締役が就任していたりと、アメリカ型の企業統治システムを積極的に採用していることでも知られていました。
 資産の選択と集中、意思決定の迅速化等の観点から、いち早くカンパニー制(各事業部門を社内分社化)を導入したことも、市場では肯定的に評価されてきました。
 ところが、その東芝が、今年2月に証券取引等監視委員会から会計処理について金商法に基づく報告命令を受け、社内に第三者委員会を設置して調査していたところ、7月に委員会から報告書が提出されるや、歴代3社長と取締役の半数が辞任する騒ぎに至りました。
 報告書を読む限り、同社では長期間にわたって不正会計が行われていたようです。
 しかし、この報告書では、歴代社長が各カンパニーに対して必達目標を設定し「チャレンジ」と号令を掛けていたことは判るものの、その具体的指示については認定されていません。また、不正会計を見逃してきた監査法人の責任も言及されていません。 そのため、この報告書に対する批判も少なくないのです。
 確かに、同社は「ステーク・ホルダーの皆様からの信頼性を更に高めるため」日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会を設置すると明言していたのに、委員会の報告書では、同ガイドラインを無視して、委員会は会社に対してのみ責任を負う、つまり、会社以外の(ステーク・ホルダーを含む)第三者には一切責任を負わないとのディスクレーマーがしてあり、話が違うと思ったところです。
 一応、事実関係は報告書記載の通りとすると、問題は、各カンパニーで行われてきた数多くの不正会計を、歴代社長はもとより、取締役会、監査委員会、監査法人等がなぜ見抜けなかったのか、せっかく整備した最新の企業統治システムがなぜ機能しなかったのか、ということになります。
 一つ指摘しておきたいのは、アメリカ型の企業統治システムでは、トップダウンによる迅速な意思決定を実現するため専門家による経営が前提になっているということです。つまり、アメリカ型の会社役員とは、企業経営の専門家であり、小さな会社で経験を積んでより大きな会社に転職していくプロ集団なのです。だから不正がないとはいえませんが、不正の存在を見抜く能力は高い訳です。
 これに対して、我が国の会社役員という地位は、終身雇用・年功序列の終着点ですから、通常、その地位に就くまで経営者としての知識や経験を積んでいません。プロパー取締役の弱点を補うのは社外取締役ですが、同社の場合、企業経営とは関係ない方々が指名されてきたようです。そういう薄い陣容で日本を代表する巨大企業を統治してきたこと自体に無理があったと言わざるを得ません。以上

(2015.09)

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