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「債権改正法(その9)」 VOL301

 現在国会に提出されている「民法の一部を改正する法律案」のうち、今回は「約款」についてご紹介します。
 ここでいう約款とは、企業等が不特定多数の相手方と契約を締結するために用意してある「定型的」な契約条項のことです。約款は、私たちが日常生活において公共サービス等を利用する際、事業者から当該サービスと共に提供されます。例えば、交通機関の運送約款、銀行の取引約款、電話会社の利用約款等です。私たちは約款に同意したことになりますが中身を気にすることは通常ありません。
 上記のような特殊な作成・締結過程を有する約款も、現行民法では一般的な契約と同様に規律され、特別な規定は設けられていません。しかし、現代社会における約款の重要性に鑑みて、法案は「定型約款」の規定を設けています。
 まず、法案は、定型約款について、大要、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であってその内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的なもの)において、その特定の者により契約の内容とするために準備された条項と定義しています。
 従って、事業者同士の取引のために準備されている契約類については、不特定多数の者を相手方とする取引で使用されることは予定されていないため、ここでいう定型約款には該当しません。
 法案は、定型取引を行うことを合意した者は、①定型約款を契約の内容とする旨合意したとき又は②定型約款を準備した者(定型約款準備者)があらかじめ定型約款を契約の内容とする旨相手方に表示していたときは、定型約款の条項に合意したものとみなすことにしました。
 もっとも、定型約款準備者が、あらかじめ定型約款で契約を締結する旨表示してさえいれば、その内容如何に拘わらず、相手方を一方的に拘束できるというのも不当です。相手方である利用者・消費者は、上記の通り、定型約款の内容を通常認識していないからです。
 そこで、法案は、定型約款の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及び実情並びに取引社会通念に照らして信義則に反すると認められるものは合意しなかったものとみなすことにしています。
 例えば、途中解約を一切認めない条項、債務不履行に際して過大な違約金の支払いを求める条項等が考えられます。
 さらに法案は、相手方となる利用者・消費者保護の観点から、定型約款準備者である事業者に対し、相手方から請求があった場合には、遅滞なく相当な方法で定型約款の内容を示さなければならないこと及び相手方の請求を拒んだ場合は、定型約款を契約内容とする旨合意したとはみなさない旨規定しています。
 他方、法案は、定型約款による法律関係の画一的処理の必要性にも配慮し、定型約款準備者が、定型約款を変更する場合、その変更が、①相手方の一般の利益に適合するとき又は②契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更をすることがある旨の定めの有無、変更の内容その他変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは相手方の個別の同意を得る必要がない旨規定しています。以上

(2015.10)

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