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「マイナンバー制度(その3)」 VOL306

 今年に入って、個人番号(マイナンバー)の提供を求めたり、求められたりする機会が増えてきました。
 マイナンバー法第14条は、事業者等が本人等に対して個人番号を提供するよう要求できることを定めています。また、同法第16条は、本人確認の措置として、事業者等が個人番号の提供を受けるときは、①個人番号カード、若しくは、②通知カード及び通知カードに記載された事項が当該本人のものであることを証明する書類(運転免許証やパスポート等の身分証明書)の提示を受けるものと規定しています。
 通知カード自体は身分証明書ではないので、通知カードだけでは足りず、身分証明書の添付が要求される訳です。
 今のところ、個人番号カードを作成している方はまだ少数ですから、ほとんどの方が、通知カードと身分証明書(の写し)を提出しているものと考えられます。
 しかし、個人番号カードにしろ、通知カードや身分証明書にしろ、そこには個人番号の他、住所、氏名、生年月日、性別等の個人情報も記載されています。すなわち、これらの書類の提出は、個人番号に付随して、他の個人情報まで開示していることになるのです。これらの個人情報を、既に提供している相手(勤務先等)はともかく、提供していない相手(取引先等)に対してまで開示しなければならないことには疑問を感じます。
 この点、個人情報保護法第15条から19条には個人情報の保護等が定められていますので、個人番号の提供に付随して開示される個人情報も、事業者等において適切に保護される仕組みにはなっています。
 しかし、ここで問題なのは、自己の情報を開示する範囲を自ら決定するという憲法上のプライバシー権が侵害されているという点です。取得された個人情報が保護されることとは次元の異なる論点なのです。個人番号を提供する際の本人確認措置については、再考が必要だと思います。
 最近話題になっているマイナンバー制度の導入による副業の発覚問題も、本質的にはプライバシー侵害に係わるものだと思います。
 公務員や大企業の従業員は、原則として副業を禁止されています。ところが、マイナンバー制度の導入により、個人毎の収入の把握が容易になり、副業収入を含んだ住民税額が本業の勤務先に通知されてしまうので、本業の勤務先から懲戒処分される虞があると言われています。
 夜のネオン街では人手不足に陥ると報道されていますし、ネット上では副業の発覚を防ぐ方法(普通徴収を選択する、給与所得としない等)まで議論されています。
 個人の収入を正確に把握して適切に課税するという制度目的は理解できるのですが、勤務先から禁止されているか否かに拘わらず、個人が隠しておきたい副業の存在やその収入額が他人に知られてしまうという仕組みは、プライバシー侵害を伴うものと言わざるを得ません。目的が手段を正当化する訳ではないのです。以上


(2016.03)

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