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『労働時間規制(その1)」 VOL317

 昨年から電通、三菱電機、関西電力等の著名企業が労基署から違法残業問題で摘発されたり指導を受けたりしています。
 特に電通事件では、同社において過去に同種の事件が発生しているにも拘わらず、入社2年目の女子社員が自殺するという痛ましい結果が生じており、大きな社会問題となっています。
 電通事件に対する世論の批判の高まりを受け、厚労省は、昨年末、違法な長時間労働を放置する企業名の公表基準を、月100時間超から月80時間超に厳格化する等の緊急対策をまとめました。また、今年に入り、月100時間を超えて残業している従業員を産業医に報告する、残業時間を月60時間〜80時間に限定する等の法令改正方針を示しています。
 そこで、今回は、現状におけるわが国の労働時間規制の概略をご説明したいと思います。
 まず、労働者の労働時間には、1日8時間、1週間40時間という上限があります(労基法32条)。 
 ただし、労働者の過半数で組織する労働組合又はかかる労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者と書面で協定し、これを労基署長に届け出た場合は、労基法32条の上限に拘わらず、労働時間を延長し又は休日に労働させることができます(労基法36条1項)。この労使協定を36(サブロク)協定と呼びます。
 厚労大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、36協定で定める「労働時間の延長の限度」等に関する「基準」を定めることになっています(労基法36条2項)。この「基準」では、1週間15時間、1か月45時間、3か月120時間、1年間360時間と規定されています。
 もっとも、この基準は、あくまで行政指導のためのもので、労基法13条の労働契約の補充的効力(法律で定める基準に達しない労働条件を無効とし、無効となった部分は法律で定める基準とする効力)は認めらません。また、この基準を超える36協定が直ちに労基法36条の効力(労基法32条違反の免罰的効力)を否定されるものではないと解されています。
 さらに、36協定に「特別条項」を設ければ、臨時的な特別事情がある場合に基準を超えることも可能となります。あくまで臨時ですから、本来は突発的な納期対応や事故・クレーム処理等の場合に限られ、恒常的な業務繁忙には適用されないはずです。しかし、この特別条項が濫用されているという話もあります。
 36協定がある限り、使用者は労働者に1日8時間、1週40時間を超える時間外・休日労働をさせても、労基法32条違反の責めを問われません。他方、労働者に36協定上定められた時間外・休日労働を義務付けるためには、別途労働契約上の根拠が必要となります。つまり、36協定とは時間外・休日労働を適法に行う枠を設定するもので、枠の範囲内で労働者に時間外・休日労働命令を発するには、就業規則や労働契約で時間外・休日労働を命じうる旨規定しておかねばなりません。
 もちろん、時間外・休日労働を命じる実質的理由がない場合や、労働者に時間外・休日労働を行えないやむを得ない事由がある場合等は、時間外・休日労働命令は権利濫用として無効です。もっとも、権利濫用を主張立証するのは労働者側なので、日々の業務の中で命令を拒絶することは難しいと思われます。
 このように、わが国の労働時間規制には36協定という大きな抜け穴があり、実質的に青天井という批判があるのです。以上

(2017.02)

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