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「労働時間規制(その6)」

 一昨年12月の電通過労死事件を契機として、労働基準監督署による長時間労働の取り締まりが強化されています。
 労基署は、現在、1か月当たり80時間を超える残業が行われた疑いのある事業場や、長時間労働による過労死等の労災請求があった事業場を対象として監督指導を実施しています。
 平成28年4月から9月の間に、合計1万59事業場に立ち入り、違法な時間外・休日労働に対する是正勧告書の交付数は4416(43.9%)、時間外労働を月80時間以内に削減する旨の指導票の交付数は6060(69.8%)に上りました。
 労基署の従前の監督指導基準は残業時間月100時間超、平成27年4月から12月までの間の調査実施事業場数は8530でしたから、監督指導がより厳格化しているといえます。
 労基署による月80時間の削減指導の根拠は、脳・心臓疾患の発症前1か月間に概ね100時間、または、発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合に、業務と発症との関連性が強いとの医学的知見があるからと説明されています。
 労基署による監督指導が長時間労働に対する直接的な規制とすれば、時間外労働等に対する割増賃金の支払義務は間接的な規制といえます。
 労働基準法及び割増賃金令は、時間外労働に対する割増賃金を通常賃金の2割5分と定めています。つまり、通常の時給が1000円なら、時間外労働の時給は1250円になります。
 また、休日労働や深夜労働にも割増賃金を支給しなければなりません。ただし、ここでいう「休日」とは、日曜日や祝日とは一致せず、労基法35条で定められた週1日又は4週を通じて4日の法定休日を意味します。休日労働の割増賃金率は通常賃金の3割5分です。
 「深夜」とは、午後10時から午前5時までを意味し、割増賃金率は通常賃金の2割5分以上です。
例えば、時間外労働が深夜に及ぶ場合は2割5分+2割5分=5割以上、休日に深夜労働をさせる場合は3割5分+2割5分=6割以上の割増賃金を支払わねばなりません。他方で、休日に時間外労働という概念はないという理由で、休日に8時間以上の労働を課しても休日割増賃金率の3割5分で足ります。
 さらに、平成20年改正労基法(平成22年4月施行)により、1カ月45時間を超える時間外労働については、労使に対して労働時間短縮・割増賃金率引き上げの努力義務が課され、1カ月60時間を超える時間外労働については、割増賃金率を5割以上に引き上げるか、引き上げ分の割増賃金の支払いに代えて、有給休暇を付与しなくてはなりません。但し、中小企業については「当分の間」引き上げが猶予されています(138条)。
 行政による長時間労働規制の強化、改正労基法による割増賃金率の上昇、簡易迅速な労働審判制度の導入、インターネット情報の普及等が相乗効果を上げ、近年、労働者の労働時間に対する権利意識が急速に高まり、巷では残業代請求事件数が増加しているのです。以上

 

(2017.07)

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