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裁判官の任命について(その1)

 先日、弁護士会の会合で、宮本康昭さん(元裁判官)から司法改革に関するお話を聞く機会がありました。
 宮本さんは81歳で、現役の弁護士として活躍されていますが、憲法の教科書では必ず触れられる「裁判官の再任拒否事件」の当事者として著名な方です。
 憲法80条第1項は、下級裁判所(最高裁判所の以外の裁判所)の裁判官は「任期を10年とし、再任されることができる」と規定しています。
 つまり、憲法上、裁判官は、再任されることはできますが、再任される権利がある訳ではありません。しかし、事実上の終身雇用制の下で、特段の事情がない限り、裁判官は、10年に一度再任願を最高裁判所に提出し、そのまま再任が認められているのが実態です。
 ところが、1971年4月、最高裁判所は、熊本地方裁判所判事補だった宮本さんの再任願を拒否しました。宮本さんは、やむなく、判事補と兼任していた簡易裁判所判事の任期を数年務めた末、弁護士会に弁護士登録されました。
 もちろん、当時から現在まで、体調不良や適性不足等を理由として、再任が認められない裁判官はいます。しかし、宮本さんは、そのいずれにも該当しない方でした。
 最高裁判所は、宮本さんの再任拒否の理由を今でも明らかにしていません。しかし、一般的には、当時の保革対立の政治情勢の下で、宮本さんは革新系組織に所属し、大学紛争に参加した活動家に対する欠席裁判に反対していたためだと言われています。
 宮本さんの今回のお話は、再任を拒否されて弁護士登録した後、司法改革に身命を賭して尽力してきた半生を振り返ったものでした。宮本さんは、裁判所から弁護士会に活躍の場を移した後も、司法改革に努力しておられたのです。
 その結果、今回の改革において、国民が刑事裁判に参加する裁判員裁判や、弁護士や市民が参加して裁判官の再任を審査する指名諮問委員会が作られました。
 しかし、現在の政治情勢は、与党が議会で3分の2を超える大勢力となり、内閣法制局長官を交代させて歴代内閣の憲法解釈を簡単に変更できる時代となっています。最高裁判事の何名かは弁護士会が推薦する候補者から選ぶという人事慣習も守られなくなりました。来年交代が予想される最高裁判所長官に誰が任命されるかも興味深いところです。
 宮本さんのお話を聞きながら、このご時世に、裁判官が自らの良心に従って政権の意向に添わない判決を出すことは、大変勇気がいることだと考えざるを得ませんでした。
 丁度そんなとき、投票価値が3倍を超えた昨年7月の参議院選挙に対して、最高裁判所は「合憲」のお墨付きを出しました。少数意見を出した最高裁判事がいたことに、ある意味、ほっとしたところです。以上

(2017.10)

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