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「裁判官の任命について(その3)」

 前回ご紹介したように、最高裁判所は1人の長官と14名の裁判官で構成されます(憲法79条1項)。長官は、内閣の指名に基づいて天皇に任命され(同6条2項)、その他の裁判官も内閣に任命されます(同79条1項)。つまり、最高裁裁判官15名の人事権は内閣が独占的に握っているのです。
 では、国民審査以外に、内閣の人事権に何の制約もないかというと、そうではありません。従前から、最高裁裁判官の構成は、出身分野毎に人数枠が決められていました。ある裁判官が退官すると、当該裁判官の出身母体の被推薦者の中から後任者が選ばれてきたのです。
 出身分野毎の人数枠は、1970年以降、概ね、裁判官6名、弁護士4名、検察官2名、行政官2名、学者1名です。
 また、最高裁には裁判官15名全員で構成する大法廷のほかに、裁判官5名で構成する小法廷が3つありますが、各小法廷に特定の出身分野の裁判官が固まらないように、分散配置されています。
 人数枠の設定は、出身母体の既得権益ではないかという批判もありますが、内閣による人事権の濫用を防ぐ手段として、長らく評価を受けてきました。
ところが、今年2月の山口厚裁判官の任命に際しては、この慣行が守られませんでした。山口裁判官の任命は、弁護士出身の大橋正春裁判官の後任人事でしたから、通常であれば、弁護士から選ばれることになります。弁護士出身の最高裁裁判官の選考については、従前から、日本弁護士連合会(日弁連)が、各弁護士会から推薦を受けた候補者を4名~6名位に絞って最高裁に推薦し、最高裁はそこから2名を選んで候補者として内閣に提出し、内閣は2名のうちの1名を最高裁裁判官に任命していました。
 ところが、山口裁判官は、当時、大学教授を退官したばかりで、弁護士登録をして1年に満たず、弁護士会からも日弁連からも推薦を受けていない候補者だったのです。
 報道によると、内閣が最高裁から提出された候補者を拒絶し、最高裁に対して他の候補者を要求したため、最高裁が山口氏を追加提出して、山口氏が任命されたという経緯のようです。
 山口裁判官の任命によって、弁護士の最高裁裁判官枠が一人減らされたことになりますが、この事実を認めたくない日弁連は、山口裁判官も弁護士出身者であるという苦しい説明をしています。
 しかし、というか、やはりというか、昨年7月の参院選の一票の格差訴訟の最高裁判決(今年9月27日)において、山口裁判官は合憲の多数意見に与していました。
 さらに、現在の寺田逸郎長官が来年1月に定年退官します。かつては学者や弁護士出身者から長官が出たこともありましたが、1975年以降、現在の寺田長官を含め、10代続けて裁判官出身者から長官が任命されています。はたして後任人事がどうなるか注目されています。以上

(2017.12)

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