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『労働時間規制(その9)』

 政府が今通常国会に提出した通称「働き方改革関連法案」は、①時間外労働規制、②年休取得の確保、③フレックスタイムの見直し、④裁量労働制の対象業務拡大、⑤高度プロフェッショナル制度の創設、⑥同一労働同一賃金の原則強化等多様な論点を包含するものです。
 このうち、上記①と⑤が法案の目玉であり、これまで何度かご紹介してきました。ところが、ここにきて、国会では上記④の「裁量労働制」が主戦場となっています。
 そもそも「裁量労働制」とは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者(研究開発技術者、情報処理技術者、プロデューサー、ディレクター、デザイナー等の省令列挙業務)について、事業場の労使協定が認める場合(専門業務型裁量労働制)と、企業の企画、立案等の業務を自らの裁量で遂行する労働者について、事業場の労使委員会が決議した場合(企画業務型裁量労働制)に、労働者の実際の労働時間にかかわらず、一定の労働時間働いたものとみなす制度のことです。
 ただし、このみなし制度においても、休憩、休日、時間外・休日労働、深夜業の規制は適用されます。
 また、この制度は、本来、業務遂行方法を労働者の自主的な裁量に委ねる建前ですが、企画業務型裁量労働制の場合、使用者は出退勤時刻を記録等して労働者の就業時間等の勤務状況を把握したり、定期的なヒアリング等をおこなったりして、労働者の健康状態を把握することが奨励されています。
 法案の上記④とは、この企画業務型裁量労働制の対象業務に「課題解決型の開発提案業務」と「裁量的にPDCAを回す業務」を追加するという改正です。労働者側(連合)は反対しているものの、上記⑤の高度プロフェッショナル制度ほど大きな論点にはならないという見方もありました。
ところが、衆議院予算委員会で、安倍首相が、厚労省の2013年度労働時間等総合実態調査を引用し、裁量労働制の人の方が、一般労働者よりも労働時間が短いデータもあると答弁したことから、野党から疑義が呈せられました。調査の結果、厚労省のデータに多数の誤りが発見され、首相が発言を撤回して陳謝する事態に陥ったのです。野党は法案全体の撤回を求めて紛糾しています。
上記調査結果では、確かに裁量労働制で働く人の労働時間が一日9時間16分なのに対し、一般労働者の労働時間は一日9時間37分だったそうです。ところが、この調査において、一般労働者には「一か月で最も長く働いた日の残業時間」を聞いていたのに対し、裁量労働で働く人には単純に「一日の労働時間」を聞いており、質問の前提が異なっていたとのことです。そうであるならば単純に比較できない数値です。
 普通に考えてみても、裁量労働制で働く人の方が、一般労働者よりも高度で専門的な業務に従事しているのですから、より長時間働いているはずです。コモン・センスの欠如が問題を大きくしてしまったと言わざるを得ません。とはいえ、上記①の時間外労働規制だけでも通らないかなと法案の行方が気になるところです。以上 

(2018.03)

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