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『裁判手続きのIT化について』

 最近「IT化」(アイ・ティ化)によって10年後に無くなる仕事や職業が話題になっていますが、今回は、そのIT化による淘汰の波が、ついに司法界にもやってくるというお話です。
 本年3月30日、内閣官房が設置した「裁判手続等のIT化検討会」が報告書を取りまとめました。
 この検討会は、政府の未来投資戦略2017(閣議決定)において「迅速かつ効率的な裁判の実現を図るため、諸外国の状況も踏まえ、裁判における手続保障や情報セキュリティ面を含む総合的な観点から、関係機関等の協力を得て利用者目線で裁判に係る手続等のIT化を推進する方策について速やかに検討し、本年度中に結論を得る」と決定されことを受け、昨年10月から開催されてきました。
 上記の「関係機関」として最高裁がオブザーバー参加し、日弁連も検討会の報告書の取りまとめ直後に「裁判手続等のIT化に向けた基本的方向性に賛同する」との会長談話を表明するなど、司法界がこぞって注目していた問題でした。
 検討会は、裁判手続等のIT化に当たっては、民事訴訟手続における①e提出、②e事件管理、③e法廷の「3つのe」の実現を目指すべきと報告しています。
ここで「e提出」とは、訴状、準備書面、判決書等の民事訴訟関係の紙媒体を全て電子化し、手数料の納付等と共にオンライン処理されることです。
 「e事件管理」とは、裁判所が事件記録や事件情報を電子媒体で保存して関係者はオンラインでアクセスし、事件進行管理もオンラインで行われることです。
 「e法廷」とは、テレビ会議やウェブ会議(パソコンのチャット機能)を利用して民事訴訟手続の口頭弁論、争点整理、証人尋問、判決期日等を行うことです。
 検討会は「3つのe」を実現する方法について「実現可能なものから速やかに、段階的に導入」していく必要があり、まずは現行法下でも実現可能で、利用者目線で見れば導入に当たってのハードルが低い「争点整理手続でのウェブ会議の活用」から運用を開始するべきだと提言しています。つまり、検討会は「e法廷」を先行実現しようとしているのです。
 他方で、検討会は「e提出」と「e事件管理」については、現行法の枠を超える部分がある上、新たなシステム整備等に時間がかかることから後回しにせざるを得ないと解説しています。
 しかし、検討会が提言している「e法廷」の先行実施のハードルも、それほど低くはなさそうです。
 まず、ほとんどの裁判官と弁護士は、これまでの業務でウェブ会議を使ったことがありません。
プロについては訓練すればよく、淘汰される者が出ても仕方ないと割り切るとしても(日弁連では大問題でしょうが)、わが国では本人訴訟(代理人を使わずに当事者が自ら遂行する訴訟)が認められています。ウェブ会議を使えない素人が本人訴訟において不利になる懸念があるのです。
 また、全ての訴訟参加者が各自のパソコンからオンラインで裁判所の民事訴訟手続に参加することになるので「情報セキュリティ対策」が必要不可欠となります。毎年膨大な数の個人情報の漏洩問題が公表されていますが「e法廷」が新たな話題を提供することは避けたいところです。以上
 

(2018.06)

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