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『裁量労働制(その1)』

 わが国の大手電機メーカーにおいて、2014年から2017年の間に、合計5名もの従業員が長時間労働を原因とする精神疾患や脳障害を発症して労災認定を受けていたこと、しかも、そのうち2名が過労自殺していたことが報道されています。
 さらに問題なのは、上記5名のうち3名(過労自殺者1名を含む。)に対して「裁量労働制」が適用されていたこと、同社は今年3月に約1万名もの従業員に適用していた裁量労働制を突然全廃していたこと等も明らかにされています。
 当時、同社は、裁量労働制を廃止した理由について「労働時間をより厳格に把握するため」とだけ説明していました。ただ、政府と経済界が裁量労働制の適用対象の拡大を目指していた時期に、同社がこれを全廃したことについては、違和感をもって捉えられていたようです。
 実は、同社が裁量労働制を廃止する3か月前に、2件の過労死を問題視した厚労省が、同社本社の立ち入り検査を実施していたとのことです。立ち入り検査後に同種の労災事件を再発させると、同省の基準により企業名を公表されることになります。同社は公表リスクを回避するために裁量労働制を全廃したのではないかという見方もあります。仮にそうだとすると、同社の経営陣は裁量労働制の下では過労死を防止できないと判断したことになります。
 ところで、裁量労働制とは、概ね、実際に働いた時間にかかわらず、一定時間を働いたとみなして残業代込みの賃金を支払う制度です。
通常の労働者は、労働時間を厳格に管理されており、労働時間の長さに比例して賃金を受給すると共に「働かせ過ぎ」から守られています。しかし、近年における産業社会の高度化、情報化の中で、知的労働に従事する労働者の割合が飛躍的に拡大し、労働の量(時間)よりも質(成果)によって報酬を支払われる方が適している者も増えてきています。
 そこで、1987年の改正で労基法に裁量労働制が初めて導入されたのです。制度の創設当初は、研究開発技術者等の一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者(省令列挙業務)について、事業場の労使協定が認める場合に、裁量労働制を適用できました(専門業務型裁量労働制)。
その後、1998年の労基法改正により、企業の企画・立案等の業務を自らの裁量で遂行する労働者についても、事業場の労使委員会の決議を条件として、裁量労働制が適用されることになりました(企画業務型裁量労働制)。
 今般の「働き方改革関連法」では、当初、企画業務型裁量労働制に「課題解決型提案営業」と「事業運営に関する事項について企画、立案調査及び分析を行い、その成果を活用して裁量的にPDCAを回す業務」を追加する改正が予定されていました。ところが、法案の審議過程で資料のデータに誤りが見つかったため、この改正案は撤回されてしまいました。もっとも、正しいデータが集計され次第再提出されると言われています。
 ただ、今回発覚した過労死問題により、裁量労働制の下では過労死が避けられないのではないか、「働かせ放題」のための制度ではないか等といった疑念が広がる可能性もあります。
 労働者の心身の健康維持はもとより、ワーク・ライフ・バランスの確保の観点からも、裁量労働制の在り方を改めて検討する必要がありそうです。以上 
 

(2018.10)

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