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『裁量労働制(その2)』

 前回ご紹介した「裁量労働制」については、従前から「定額働かせ放題」という陰口もありましたが、従業員の過労死を契機として全廃した企業が出てくるなど、近時様々な批判が出ています。
 裁量労働制とは、専門業務型であれ、企画業務型であれ、要するに、労働者が自主的・自律的に労働することができ、労働させた方が成果も上がると労基法が認めた業務に限って、労使協定で「みなし」労働時間数を定め、当該業務に従事する労働者は、実際の労働時間に関係なく、協定で定める時間を労働したものと「みなす」制度ということになります。
 つまり、この「みなし」制度は、企業側が一方的に定めるものではなく、法律の指定と労使の合意によって成立する、本来は中立的なものと理解できます。
 もちろん、休憩、休日、時間外・休日・深夜労働等の労基法上の規制も全て適用されます。仮に「みなし」労働時間数が法定労働時間を超えれば、当然、三六協定の締結・届出、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の支払いが必要となるのです。
 もっとも「みなし」労働時間数が法定労働時間内である限り、所定労働時間内の労働については割増賃金の支払いを不要とする制度なので、賃金面において、労働者に不利益になる虞があります。
 以上のことから、この「みなし」制度を採用するためには、本来、①当該業務の遂行において労働者の自主性に委ねる部分が大きく、労働時間を拘束することが、かえって労働者の能力発現の妨げになること(自主性)、②当該業務の遂行に高度の自律性が保障されていること(自律性)、③労働者がその業務に従事することにより、割増賃金の不払いを上回る経済的待遇を保障されること(経済的メリット)、④休憩や休日を完全に消化できる体制であること(休憩・休日)、⑤使用者が労働者の健康や福祉の確保に配慮すること(健康・福祉の確保)等の前提条件が必要となる訳です。
 しかしながら、裁量労働制を導入している企業の全てが上記の前提条件を完全に満たしているかといえば、疑問と言わざるをえません。なかには、従業員の残業代を抑制する目的や、サービス残業に対する労基署の摘発を避ける目的で、この制度を導入した企業もあると言われています。営業職まで含めた全従業員に対して「みなし」制度を適用している勘違い企業まで存在するようです。
 しかし、近時は冒頭でご紹介したように、裁量労働制と過労死の関連性が問題視されています。そこで、裁量労働制を維持していくためには、上記④と⑤の確保が必要不可欠であると思われます。
 この点、厚労省は、現在、同省の指針において、使用者に対して、労働者の出勤退勤時刻又は入退室時刻の記録等により対象労働者の勤務時間等の勤務状況を把握するように求めています。また、対象労働者からの自己申告や上司からの定期的なヒアリングにより、労働者の健康状態を把握すること、把握した労働者の勤務状況や健康状況に応じて、代償休日や特別休暇の付与、健康診断や配置転換の実施等を求めています・さらに、年次有給休暇取得の促進や健康相談窓口の設置等も奨励しています。
 なお、この指針は、今後改正(緩和)されるとのことですが、労働者の健康と福祉の確保は、この制度の大前提と言えそうです。以上 
 

(2018.11)

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