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『2019年の課題』

 2019(平成31)年を迎え、皆様のご健康とご多幸を祈念致します。
 平成最後の年となりますが、今年の司法界は、国際標準(グローバル・スタンダード)との比較・競争の年になりそうです。
まず、日産ゴーン事件におけるゴーン氏の身柄拘束問題が挙げられます。昨年11月から逮捕・勾留されているゴーン氏の身柄拘束期間は、紆余曲折の上、結局越年することになりました。
 しかし、そもそも日本の刑事司法は、国際標準からみると極めて異質です。別件逮捕・勾留は当たり前、被疑者・被告人の取り調べに弁護人の立会権はない、自白しない限り保釈は原則許されない(「人質司法」)等、人権侵害問題が山積しています。
 中国でも、昨年、著名な女優から国際刑事警察機構(インターポール)の総裁までが、嫌疑不明のまま、いつのまにか行方不明になっていました。日本は逮捕・勾留理由や勾留場所・期間が公表されるだけまだましとはいえますが、身柄拘束期間が極めて長いという点で、同国の制度に類似しているのです。
 対照的だったのが、昨年カナダで起きたファーウェイ(中国の巨大企業)の中国人副会長の逮捕・勾留事件です。法人によるイランへの違法輸出の嫌疑でしたが、ゴーン氏に比べると、はるかに短期間で保釈が認められたのです。
 日産ゴーン事件では、有価証券報告書虚偽記載罪という形式的な犯罪での勾留延長請求に失敗した東京地検特捜部が、ゴーン氏を特別背任容疑で改めて逮捕し勾留を継続してしまいました。
 しかし、この間、ゴーン氏の様々な特別背任容疑が特捜部によってリークにされていました。最初から本命の特別背任容疑で逮捕・勾留するべきだったことは明らかです。
 国際標準という観点からは、日産ゴーン事件で「司法取引」が利用されたことも特筆するべき事態です。
 司法取引とは、自己の刑罰の減免を得るために他者の罪状を裁判で証言するという制度です。
 欧米の制度に倣って導入されたと言われていますが、同種の制度は、古今東西どこにも存在しています。
 司法取引は、今年6月から導入されており、公表されている限り、日産ゴーン事件が適用2件目です。これが国際標準と胸を張れるかどうかはともかく、特捜部が日産社内の権力闘争を利用した構図が明らかになるにつれて、この制度に対する国民の信頼は揺らぎつつあります。
3つ目として、民事裁判手続のIT化を指摘したいと思います。
 昨年3月に内閣官房の「裁判手続等のIT化検討会」が取りまとめた報告書を受けて、現在、商事法務に「民事裁判手続等IT化研究会」が設置され、IT化を巡る議論が進んでいます。
 確かに、諸外国の裁判所を見学すると電光掲示板が並んでいることに驚かされます。インターネットを経由した書面提出や、ウェブ会議を利用した弁論手続が広く行われているのです。
 多くの企業や国民が外国の裁判手続を利用するようになり、翻って、わが国の裁判手続のIT化が遅れていることが指摘されているのです。医療現場では既に電子カルテやオンライン診療が採用されていることとも比較されています。
 民事裁判手続のIT化によって、国民の裁判を受ける権利の実質化が図られるならば、IT化の推進は望ましいことだと思います。以上
 

(2019.01)

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