トピックス

『裁判手続きのIT化(2)』

 今回は、裁判手続のIT化について、改めてご説明したいと思います。
 昨年3月に内閣官房の「裁判手続等のIT化検討会」が報告書を取りまとめ、そこでは民事訴訟手続における「3つのe」すなわち、
e-Filing(e提出)
e-Case Management(e事件管理)
e-Court(e法廷)
の実現を目指すべきであると提言されました。「e提出」とは、訴状、準備書面、判決書等の民事訴訟関係の紙媒体を全て電子化し、手数料の納付等と共にオンライン処理されること、「e事件管理」とは、裁判所が事件記録や事件情報を電子媒体で保存して関係者はオンラインでアクセスし、事件進行管理もオンラインで行われること、「e法廷」とは、テレビ会議やウェブ会議(パソコンのチャット機能)を利用して民事訴訟手続の口頭弁論、争点整理、証人尋問、判決期日等を行うことです。
 報告書では「3つのe」を実現する方法について、まずは予算確保やシステム開発の心配が少ない「e法廷」から先行実施することになっています。
 報告書を取りまとめた検討会には最高裁判所がオブザーバーとして関与していましたし、日本弁護士連合会も「裁判手続等のIT化に向けた基本的方向性に賛同する」との会長談話を表明し、官民そろってIT化の推進に舵を切りました。
 そのため、全国各地で裁判所と弁護士会の協力に基づき、ウェブ会議を利用した模擬裁判が実施されています。
 裁判手続のIT化との関係で注目されているのは、地域住民の裁判を受ける権利です。
 全国には都道府県ごとに合計50(北海道は4か所)の地方裁判所があり、また、各地域の司法を担うために200を超える裁判所支部があります。しかし、そのうち45の支部には裁判官が常駐していません。裁判官の非常駐支部では、裁判の開廷日にあわせて地裁本庁から裁判官が出かけて裁判をします(「填補」といいます)。
 週に1日とか2日とか、支部によって裁判官の填補日数は異なりますが、裁判官の填補日数が少ないほど裁判期日が入りにくくなり、地域住民の裁判を受ける権利が形骸化してしまうことは否めません。また、どうしても裁判官の填補日に裁判や調停が集中してしまい、証人尋問の途中で調停手続が入って尋問が中断するような事態がしばしば起きています。
 弁護士会は、地域住民の裁判を受ける権利確保の観点から、裁判官の支部常駐化を主張しています。しかし、裁判所側は、事件数が少ない支部にまで裁判官を常駐させるのは非効率という立場で、常駐化には消極的でした。
 そこで、裁判手続のIT化により、この問題を解消・緩和することができるのではないかと議論されています。裁判官や訴訟当事者が実際に支部に行かなくてもITを利用して支部の裁判手続を進めることができるなら、地域住民の裁判を受ける権利を実質的に拡充できるかもしれません。しかし、他方で、裁判官も訴訟当事者も来ない裁判所支部の存在意義や裁判管轄の定め方自体も問われるのではないかという疑問も生じてくるのです。以上
 

(2019.02)

インデックス

このページの先頭へ