トピックス

『裁判手続きのIT化(3)』

 現在、全国各地の地方裁判所において、現行の民事裁判手続を前提としたIT化の模擬裁判が行われています。前回ご説明した「3つのe」のうち「e-Court(法廷)」を実験している訳です。
 具体的には、裁判官と弁護士が、それぞれ裁判所と弁護士事務所に居ながら、設例事件を審理するため、ウェブ会議、つまりパソコンの「Skype」(スカイプ)や「OneDrive」(ワン・ドライブ)といったビデオ通話機能を使い、オンラインによって弁論準備手続を進めるのです。
 しかし、参加した弁護士の報告によると、まだ試行段階なのでパソコンの接続がうまくいかなかった、ノート・パソコンの画面が小さくて見えづらかった、一人でパソコンを操作しながら会議に参加するのは難しかった等といった問題が提起されています。「e-Court(法廷)」の実現にはまだ時間がかかりそうです。
 この点、民事裁判手続のIT化を先行している諸外国の状況ですが、例えば、韓国では、2010年3月に民事訴訟等における電子文書の利用等に関する基本法が 制定され、以降電子訴訟の提起率(わが国の「e-Filing(提出)」率)が年々高まり、2016年には65.9%に達したといわれています。特にソウルでの電子訴訟の提起率が82.5%と突出して高いようです。
 また、韓国では、電子裁判のウエブサイトにおいて、ユーザーごとにマイページを利用でき、係属中の事件数や事件名等の確認はもとより、個別の事件記録にアクセスすることも可能とのことです。我が国では「e-Case Management(事件管理)」と呼ばれている機能が、既に韓国では実用化されているのです。
 他方で、韓国では、当事者の一方又は双方が電話、テレビ、ウェブ等の方法で弁論準備手続に参加することが認められていないこと等から「e-Court(法廷)」は実用化されていないとのことです。
 次に、米国では、1980年代から既に一部の連邦裁判所において紙媒体の裁判記録を電子化する取り組みが行われ、1990年代になると一部の連邦裁判所で裁判の電子申立(わが国の「e-Filing(提出)」)ができるようになり、現在では、連邦裁判所管轄の裁判手続の申立は全てオンラインで行えるようになっています。
もっとも、州裁判所のレベルでは2007年時点で州内の全部又は一部において裁判手続のIT化を導入しているのは26州にとどまっていたとのことです。
 さらに米国における「e-Court(法廷)」の実施については、2011年に至ってようやく裁判手続等におけるビデオ会議システムの利用が推奨され、それ以降、訴訟関係者の移動時間や費用の削減を狙って、口頭弁論手続や証人調べにおいてテレビ会議の利用が増えている、巡回控訴裁判所の裁判官が現地の裁判所に移動せずにビデオ会議システムによってヒアリング期日を開催している、医師等の鑑定人の証人尋問をビデオ会議で行っている、という程度で、まだ本格的な導入には至っていません。
 結局、諸外国でも「e-Court(法廷)」がそれほど活発に行われている訳ではなく、まして、わが国のようにe-Court(法廷)」からIT化に着手しようとした国は見当たらないようです。わが国の民事裁判手続のIT化はユニークな発展を目指すようです。以上
 

(2019.03)

インデックス

このページの先頭へ