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『地域司法について(3)』

 今回は3月22日に宮城県の仙台市で開催された地域司法に関する協議会をご紹介したいと思います。
 この協議会は、仙台弁護士会、千葉県弁護士会及び日本弁護士連合会が開催したもので、宮城県栗原市にある築館簡易裁判所を見学するという企画です。
 築館簡裁のように地家裁支部がなく、単独で設置されている簡易裁判所を特に「独立簡裁」と呼び、地域司法の重要な拠点と位置付けられています。
 築館簡裁の管轄地区は宮城県栗原市です。栗原市は2005年4月1日に10町村が合併してできた、人口約6万8000人、面積約800平方キロメートルの比較的新しい市です。宮城県で一番大きな市で、岩手県と秋田県との県境に位置しています。人口は減少傾向にありますが、栗駒山や伊豆沼があり、豊かな自然に恵まれています。
 築館簡裁は栗原市の旧築館町地区にあり、仙台駅から高速バスで約1時間の距離です。栗原市で唯一の裁判所ですが、同市の面積が広いため、県境から自動車で片道40~50分位かかります。
 しかも、簡裁なので取扱事件は限られています。訴額が140万円をこえる民事事件や、離婚や相続といった家事事件を扱うことはできません。一般に近年は民事事件が減少する一方、家事事件が増えています。ところが、栗原市で発生した家事事件を審理するためには隣の大崎市の仙台地家裁古川支部まで行かなければなりません。県境から同支部まで行くには車で片道1時間30分位かかるようです。
 そこで、仙台弁護士会は、築館簡裁に家裁出張所を併設するべきであるとの総会決議を挙げています。
 今回見学した築館簡裁は美しいデザインの二階建て庁舎でしたが、法廷は2つ、調停室は4つもあり、家裁出張所を併設する余地は十分ありそうでした。
 ただ、築30年以上経過した古い建物なので、エレベーターがなく、高齢者や身障者が2階の法廷や調停室へ行くのはやはり不便です。現在、各地の弁護士会は、古い二階建て庁舎の裁判所に対し、エレベーターを設置するよう求めていますが、予算の関係から、本格的な建替工事を待つことが多いようです。
 築館簡裁見学後に仙台市に戻って開催された協議会では、栗原市の問題のほか、隣接する登米市でも、仙台地家裁登米支部に裁判官が常駐していない問題が取りあげられました。同支部では特定の曜日だけ隣接する他の支部から裁判官がてん補(「出張」の意味)されるため、同支部の開廷日が特定の曜日に限られているそうです。同支部にてん補に出る裁判官がいる他の支部では特定の曜日に裁判官が不在となってしまうことになります。
 さらに、宮城県の裁判所全体の問題として、合議事件(裁判官が3名で合議する事件)、執行事件(不動産競売や債権執行等の強制執行事件)、労働審判(労働事件の迅速・適切な処理を目指して行われる調停及び審判手続)などが仙台地家裁本庁に集約されていることも挙げられました。これらの事件を審理するためには仙台市まで来る必要があるのです。
 現在議論されている裁判手続のIT化によって、地域住民の司法環境が少しでも改善されることが望まれます。以上

(2019.04)

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