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『裁判手続きのIT化(4)』

 政府は一昨年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)において、裁判手続等のIT化を推進すると定め、昨年の「骨太の方針」でも、民事司法制度改革を、政府を挙げて推進すると決定しています。
 「骨太の方針」とは、政府が政治主導で予算配分するために閣議決定する経済財政運営の基本方針で、これまでに「郵政民営化」や「働き方改革」など、時の政権の主要政策が掲げられてきました。
 「骨太の方針」を受けて、先月、関係府省庁連絡会議が開催され、そこでは特に特許制度や国際仲裁と並んで、裁判手続のIT化が取り上げられました。
 現在、裁判手続のIT化については商事法務研究会内に設けられた「民事裁判手続等のIT化研究会」で検討されています。例えば、先月の研究会では「オンライン申立ての一本化」が議論されました。オンライン申立ての一本化とは、現在は書面で行われている訴状の提出を、電子情報によるオンライン申立に限定するべきかという議論です。
 IT化を推進する裁判所の見地からは、オンライン申立に限定したいところです。しかし、裁判所の利用者の立場からは、選択肢が増えることは好ましいものの、オンライン申立に限定されると、IT機器を利用できない者や利用が苦手な者の裁判を受ける権利が損なわれるという問題があります。
 そこで、過渡期を設けて一定の期間経過後にオンライン申立に限定する、弁護士等の訴訟代理人がついていない本人訴訟に限って書面による申立を認めるといった折衷案も議論されています。
 他方、弁護士会では、IT化によって裁判官が裁判所支部に行かず、裁判所本庁にいたまま事件処理することを認めるべきかが議論されています。
 全国で203か所ある地家裁支部のうち、44支部に裁判官が常駐しておらず、支部によっては月に数日しか裁判が開かれないところもあります。弁護士会は、裁判官を増員して全ての支部に裁判官を常駐させるべきだと訴えていますが、裁判所側は裁判官の増員には消極的で、事件が集中する大都市の裁判所に裁判官を集中させ、比較的事件が少ない支部の裁判官は増やさない方針です。
 そこで、裁判官が本庁からウエブ会議を利用することで、本庁にいたまま支部の裁判を主催できれば、支部の裁判期日を増やすことができるという構想です。
 しかし、この運用が便利であればあるほど常態化してしまい、やがて支部の事件では原則としてウエブ会議だけで審理するというふうに、支部の裁判が変質してしまう危惧感があります。また、裁判官も当事者も来ない支部は、維持する必要性が乏しく、いずれ統廃合されてしまう虞もありそうです。以上
 

(2019.05)

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