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『裁判員制度10周年(2)』

 2009年5月から施行された裁判員制度は今年5月で丁度10周年を迎えました。裁判員制度は既にわが国の刑事司法に深く根付いています。しかし、現在、裁判員制度は、裁判員候補者の辞退率の上昇と出席率の低下という問題に直面しているのです。
 前回ご紹介した通り、最高裁判所は、この問題の分析をNTTデータ経営研究所に委託しました。同研究所の調査報告書では、原因として、①審理予定期日の増加傾向、②雇用情勢の変化、③高齢化の進展、④裁判員裁判に対する国民の関心の低下、⑤裁判員候補者名簿の使用率等が挙げられています。
 ただし、これらのうち上記⑤については、裁判員選任手続に出席した者は、裁判員に選任されなくても同一年度内の名簿から削除されるため、同一名簿を使用するほど出席者の割合が減り、辞退者や欠席者の割合が増えるという統計上の問題に過ぎません。
 しかし、まず上記①ですが、確かに裁判員裁判の平均審理日数は平成22年の4日から同27年の6日に増えています。平均審理日数が増えている原因は、複雑困難事件の増加、1日の審理時間の短縮化、裁判官と裁判員の評議の長時間化等と言われています。審理予定日数が増えるほど、裁判員裁判に参加可能と回答する者の数は減ることになり、辞退率が高まることになる訳です。
 上記②について、世間では非正規労働者の割合が増加しています。そして、非正規労働者の方が正規労働者よりも裁判員裁判への参加意欲・参加可能性が低いという調査結果が出ています。非正規労働者には有給休暇等の制度的保障が乏しいからではないかと推測されるところです。
 上記③と④ですが、そもそも70歳以上の方は裁判員を辞退できるので、この年齢層が増えるほど辞退率・欠席率が高まります。その結果、裁判員制度に対する無関心層の割合も増えることになるのです。
 裁判員制度に対する国民の関心の低下に関して、昨年の日弁連の司法シンポジウムでは、裁判員の守秘義務が取りあげられました。
現役の裁判員だけでなく、裁判員経験者にも守秘義務が課されており、裁判員経験者の体験交流や情報発信が妨げられていると指摘されています。この点、アメリカの陪審員の守秘義務は、当該裁判が結審するまでなのです。
 しかし、裁判員経験者が当該裁判について何も発言できない訳ではありません。評議の秘密及び評議以外の裁判員の職務を行うに際して知った秘密を守る限り、当該裁判に関して発言することは自由です。また、刑事裁判の法廷は公開されていますから、法廷で見聞きしたことは基本的に誰でも発言することができるのです。
                                                                                  以上
 

(2019.07)

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