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『改正民法の要点(13)』

 7月23日、東京オリンピックがついに開幕しました。都内は依然として緊急事態宣言下ですし、観戦チケットをふいにした方も多いと思いますが、今は静かに日本選手の活躍を祈りましょう。
 さて、前回に引き続き、改正民法の「契約不適合責任」についてご説明します。
 改正民法は、売買契約において給付された目的物が、種類、品質又は数量に関して「契約の内容に適合しないもの」(契約不適合)であるときは、買主は売主に対し、①目的物の修補、②代替物の引渡し又は③不足分の引渡しによる「履行の追完」を請求することができ(562条第1項)、「履行の追完」がなされないときは、契約不適合の程度に応じて「代金の減額」を請求することができると定めています(563条第1項)。
 つまり、現行法では、前回ご説明した旧民法の特定物理論は排除され、売買の目的物が特定物(例えば不動産や絵画等の美術品)であれ、不特定物(例えば文房具や衣料品等の消費財)であれ、売主は売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負い、目的物が契約不適合であった場合は、修補等による「履行の追完」か、契約不適合の程度に応じた「代金の減額」をすることになります。
 また、この場合において買主は、損害賠償や契約解除も可能ですが、それは特別の法定責任(旧民法570条)ではなく、一般の債務不履行に基づく損害賠償の請求(415条)と解除権の行使(541条及び542条)であると規定されています(564条)。
 従って、この場合の損害賠償の範囲を理念的にいえば「信頼利益」に限定されず「履行利益」まで請求可能となります。つまり、契約を有効と信じたために被った消極的損害に限らず、契約を履行していたならば得られたであろう積極的損害まで賠償請求できるのです。
 なお、買主の権利の行使期限ですが、従前は、買主が瑕疵を知ってから1年以内に、契約の解除又は損害賠償請求をすることが必要と定められていました(旧民法566条、570条)。契約を履行済みと考えている売主を保護するために、買主の権利行使の要件を厳しくしていたといえますが、買主は瑕疵を知ってから1年以内に権利を行使しなければならず、負担が大きいと指摘されてきました。
 そこで、判例は、裁判上の権利行使をする必要はないが、少なくとも、売主に対して、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の瑕疵担保責任を問う意思を明確に告げる必要があると判示しました。
現行法は、要件をさらに緩和し、契約不適合を知ってから1年以内にその旨の通知をすれば足りると定めています(566条)。以上
 

(2021.08)

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