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『裁判官の弾劾裁判について』

 8月になり、拙宅の紅白の百日紅が今年もそろって咲きました。しかし、東京では、新型コロナの蔓延と大雨で、どこにも出られないうちに夏休みが終わってしまいました。ただ、その間、東京オリンピックの日本選手と大リーグの大谷選手の活躍で少し心が癒されました。
 さて、6月16日、裁判官訴追委員会は仙台高等裁判所の岡口基一判事を訴追し、この訴追を受けて、7月29日、裁判官弾劾裁判所は同判事の職務停止を決定しました。
 裁判官弾劾裁判所とは通常の裁判所ではなく、国会に設置される特別の裁判所です。
 憲法は、司法権の独立(76条3項)の一環として裁判官の身分を保障していますが(78条)、他方で、国民の公務員の選定・罷免権(15条1項)に基づき、国会に罷免の訴追を受けた裁判官を裁判する弾劾裁判所の設置を認めています(64条)。憲法はこの裁判所に重大な非違行為のある裁判官を罷免させ、裁判官と裁判に対する国民の信頼を確保しようとしているのです。
 憲法の規定を受けて、国会法と裁判官弾劾法が弾劾裁判所の構成や活動方法を定めています。弾劾裁判は、国会に設けられた訴追委員会の訴追を待って行われることになっています。
 訴追委員会は、国会の両議院の議員各10名からなる組織で、裁判官に罷免事由があると判断したときに罷免の訴追をします。訴追委員会の訴追を受けて、国会の両議院の各議員7名で構成される弾劾裁判所が審理し判決を下します。
 通常の裁判手続とは異なり、訴追も裁判も国会議員だけで判断されますが、公開の法廷で進められます。
 裁判官弾劾法が定める罷免事由とは①職務上の義務に著しく違反し又は職務を甚だしく怠ったとき及び②職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったときです。
 今回、訴追委員会は、岡口判事が自ら担当していない刑事事件(強盗殺人・強盗強姦未遂事件)と民事事件(犬の返還請求事件)について、SNSに不適切な投稿を行い、当事者や遺族等関係者の感情を傷つけた行為が、上記②の罷免事由に該当すると判断して訴追しました。これらの行為については、既に最高裁判所が戒告処分を行いましたので、訴追委員会としても同判事を処分するべきだと判断したのでしょう。
 しかし、ここで問題なのは、裁判官弾劾法が定める罷免事由とは、裁判官の身分保障との兼ね合いで、上記の通り「著しい」義務違反、「甚だしい」職務懈怠及び「著しい」非行に限定されているということです。
 これまでに国会で訴追された事件は9件しかなく、罷免されたのは7件でした。罷免事由は収賄、公務員職権濫用、児童買春、ストーカー行為、盗撮等いずれも犯罪行為でした。今回の弾劾裁判では、先例と同等の重大な違法行為といえるのかが論点となりそうです。以上
 

(2021.09)

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