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『最高裁判官の国民審査』

 10月31日の衆議院議員総選挙に併せて、最高裁判所の裁判官に対する国民審査が行われました。憲法第79条第2項により、最高裁裁判官は、任命後初めて行われる総選挙に際して国民審査に付され、その後10年毎に同様の審査を受けます。
 今回の総選挙は、前回の総選挙からほぼ4年経過していたことから、国民審査にも通常とは異なる現象が生じました。
 まず、今年7月に退職した宮崎裕子判事は、国民審査を受けずに退職した初めての最高裁裁判官となりました。
 また、今回の国民審査では、史上2番目に多い11名もの最高裁裁判官が国民審査を受けました。
 ところで、国民審査とは、罷免したい最高裁裁判官を「解職」する制度なので、対象者に×印をつけ、その×印が過半数を超えたときに解職される仕組みです。しかし、今回一番不信任率の高かった裁判官でも7.85%、過去一番不信任率の高かった裁判官ですら15.17%に過ぎません。つまり、これまでに国民審査によって実際に解職された最高裁裁判官は一人もいないのです。
 むしろ、従前から、国民審査では投票用紙の掲載が早い順に不信任率が高くなると指摘されており、裁判官の資質や判断内容と不信任率との間に相関関係はないと言われてきました。
 ところが、今回の国民審査では、選択的夫婦別姓を目指すグループが、ツイッターなどのSNSを利用して、今年6月の夫婦別姓訴訟において、夫婦別姓を認めない現行法規を合憲と判断した裁判官の罷免を求める運動を組織的に展開したのです。
 今回の国民審査において、現行法規に合憲判断を下した4人の裁判官の不信任率は7.27%~7.85%だったのに対し、違憲判断を下した3人の裁判官の不信任率は6.71%~6.88%、判決に関与しなかった4人の裁判官の不信任率は5.97%~6.24%となりました。
 この結果をみる限り、合憲派の不信任率が、それ以外の裁判官の不信任率よりも1%程度高くなったといえます。わずか1%程度の違いですが、罷免を求めた有権者数が1%で約57万人多かったことになるので、相応のインパクトになったといえるかもしれません。
 なお、判決に関与しなかった4人の裁判官は、任命されたばかりで、まだ関与した裁判例が少ないため、不信任率が低くなっても不思議ではありません。
 ただ、本来、国民審査とは、対象者が最高裁裁判官にふさわしいかどうかを有権者が判断できる唯一の機会ですから、最高裁裁判官に就任する以前の経歴や業績等に関して、より多くの情報が開示されるべきであると思います。以上
 

(2021.12)

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