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『改正民法の要点(17)』

 8月となり、拙宅の百日紅もたくさんの花を咲かせています。仰ぎ見ている間だけでも、コロナ禍を忘れることができそうです。
 年に1度は百日紅の枝を切るのですが、春から夏にかけて延びてしまい、申し訳ないことに、一部は隣家の敷地に越境しているようです。
 この点、民法233条は、隣地の竹木の「枝」が越境してきたときは、竹木の所有者に枝を切除させることができ(1項)、竹木の「根」が越境してきたときは、根を切り取ることができる(2項)と規定しています。
 つまり、民法上、隣地の所有者は自分で「枝」は切れないが「根」は切れることになっています。この規定にはそれなりの理由がある訳ですが、竹木の所有者が任意に応じないと、裁判で解決しなくてはなりません。また、所有者が誰でどこに住んでいるのか分からない場合も少なくありません。
 そこで、来年4月から施行される改正民法233条3項は、①竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき、②竹木の所有者を知ることができず又はその所在を知ることができないとき、③急迫の事情があるとき、のいずれかの要件を充たした場合には、越境した枝を自ら切除することができると規定しています。
 さらに、百日紅、ケヤキ、桜等の花や葉については、風雨によって大量に散ってしまい、その一部は他人の所有地内に入ってしまうという問題があります。
 この点、土地の所有者には所有権に基づく妨害排除請求権があります。例えば、洗濯物が風で庭先に飛ばされてきたら、洗濯物の所有者に対して庭から撤去するよう要求できるのです。
 しかし、散った花や葉については、散った時点で所有権は無くなっていると考えられますから、木の所有者に対して散った花や葉を撤去するように要求できるかどうかは疑問です。むしろ、相隣関係はお互い様なので、自分の土地は自分で掃除する位は仕方がないのかもしれません。
 とはいえ、毎年大量の花や葉が散っているとすれば、その処理には相当な労力と費用が必要になります。かかる状況を放置している木の所有者も負担を分担するべきであると思われるので、不法行為等に基づく損害賠償を請求することが考えられます。
 ケヤキの落葉の被害に基づく損害賠償請求について、裁判所は、被害期間は1年間に1カ月程度であること、掃除により容易に落葉を除去できること、落葉は自然現象であり所有者の故意・過失に基づくものではないことなどから、未だ受忍限度内にあるとして請求を認めませんでした。
 ただし、これは昭和61年当時の最高裁判例ですから、民法が改正された令和では裁判官の考え方が変わる可能性はあると思います。以上
 

(2022.09)

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