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「債権改正法(その6)」vol296
法制審議会の民法部会が決定した「要綱仮案」(以下「仮案」)のうち、今回は債権の「譲渡」に関連する規定についてご説明します。
現行民法466条1項は「債権は、譲り渡すことができる」と規定しています。例えば、貴方が友人Aに10万円を貸したとすると、貴方はAに対して10万円の貸金返還請求権(債権)を有しています。Aは、翌月の給料日に10万円を返すと約束していますが、貴方は急に10万円が必要になったとします。貴方は、別の友人Bから10万円を借りてもよいですが、Aに対する10万円の債権をBに譲渡して10万円を工面することもできるという訳です。
ところで、Aの立場から考えてみると、Aは貴方が友人だからお金を借りたのであって、見ず知らずのBからお金を借りたくはなかったかもしれません。この場合について、現行民法は「前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には適用しない」(民法466条2項本文)と規定し、債務者の保護を図っています。貴方がAとの間で債権譲渡を禁止する特約をしていた場合、貴方のBに対する債権譲渡は無効となります。
しかし、Bが貴方とAとの間に譲渡禁止特約があることを知らずに貴方からAに対する債権を譲り受けた場合にまで、貴方とAとの間の特約の効力を認めるのは妥当ではありません。そこで、現行民法は「ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない」(民法466条2項但書)と規定し、譲受人の保護を図っています。
現行民法が前提としていた近代市民社会では、債権譲渡は特別な事態であり、かかる事態から債務者を保護するため、譲渡禁止特約による債権譲渡の効力の否定が必要だったと思われます。しかし、現代社会において、債権譲渡は、資本の効率的運用の観点から一般的な事態と理解されています。また、債務者を保護するためには、債権者の個性まで保障しなくても、債務者の弁済等の効力を認めれば足りると考えられています。そこで、仮案は、以下の通り規定しています。
「ア 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示…をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
イ アに規定する場合において、譲渡制限の意思表示があることを知り、又は重大な過失によって知らなかった第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができるほか、譲渡人に対する弁済その他の当該債務を消滅させる事をもってその第三者に対抗することができる…」
「 イの規定は、債務者が債務を履行せず、イに規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人に対する履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。」
すなわち、仮案では、債権譲渡禁止特約があっても、債権譲渡の効力は否定されません。債務者は、悪意又は重過失ある譲受人に対する履行を拒み、譲渡人に対する弁済を主張できますが、履行を拒んでいる間に、譲受人から期間を定めて譲渡人に対する履行が催告され、その期間内に履行しないと、譲受人からの履行請求を拒むことはできなくなります。
なお、預貯金債権については、銀行取引の安定を重視する観点から、仮案では、上記アに拘わらず、債務者は譲渡制限の意思表示をもってその第三者に対抗することができる旨定められています。以上
(2015.05)