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「債権改正法(その10) VOL302

 先日、妻から「何とかしてほしい」と依頼されたのは、申し込み期限切れのカタログ・ギフトでした。商品を選んで申し込んだところ、期限切れで交換できないというハガキが来たとのこと。
 しかし、カタログの添付書類には、期限後は商品の交換に応じない旨明確に記載されています。この文言は、前回ご説明した「定型約款」と考えられ、新債権法では消費者はこの条件に合意したものとみなされます。現行法でも、その効力を否定することは難しそうです。
 一応、インターネットで検索してみたところ、業者によっては、期限後でも商品の交換に応じてくれたり、新しいカタログを送ってくれたり、適当な商品を送付してくれたりと、何らかの救済をしてくれる可能性はあるようです。
 そこで、添付書類に記載されていた業者へ架電してみたところ、この業者の場合、有効期限を過ぎたら商品との交換には一切応じていないとの回答でした。一旦は諦めかけましたが、カタログ・ギフトを送ってくれた方にお詫びしなければと気づき、送り主名を尋ねたところ、当該業者は商品の配送だけを担当しているので送り主名は分からない、送り主もカタログ・ギフト代の返金は受けられない、との返答でした。
 しかし、そうすると、有効期限の定めとは、それを徒過すると、カタログ・ギフト代金又は商品代金相当額を業者側が利得する仕組みということになります。
 しかし、消費者にとってこの仕組みは明らかに不当であり、民法1条2項(信義則)や消費者契約法第10条(同上)に違反すると思われます。新債権法でも定型約款の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及び実情並びに取引社会通念に照らして信義則に反すると認められるものは合意しなかったものとみなす旨の規定に該当すると思います。
 こういう仕組みが横行している原因を調べたところ、平成22年4月から施行されている資金決済法に行き着きました。同法は、商品券やカタログ・ギフト等の「前払式支払手段」を規律している法律です。同法13条1項3号は有効期限の定めを前払式支払手段の表示事項とし、同法20条2項は業務の廃止等の一定の場合以外は前払式支払手段の払い戻しを禁止しています。
 そこで、業者は、有効期限の過ぎた前払式支払手段の所持者に対しては、有効期限の定めを理由として権利の行使を拒み、前払式支払手段の購入者に対しては、法律による払い戻し禁止を理由として代金の清算を拒む訳です。この場合、業者は、代金又は商品相当額を事実上利得することになりますが、かかる利得を法律上正当化する根拠はないと思います。
 ちなみに、私の事案では、交渉の結果、業者側が折れて、商品との交換に応じてくれました。妻にはいい顔ができたものの、この仕組み自体に欠陥があると思った次第です。以上

(2015.11)

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