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「2016年の課題」 VOL304
2016(平成28)年を迎え、皆様のご健康とご多幸を祈念致します。
昨年は、18歳選挙権、一票の格差や夫婦同姓に関する平等権、安保法、集団的自衛権、普天間基地移設といった平和と安全に係わる問題等、憲法上の権利や制度について多くの問題が提起されました。憲法が制定されてから70年が経過し、今年も「この国のかたち」を巡って様々な議論がなされることと思います。
これらについては、法律問題であるだけでなく、政治経済文化に深く係わるテーマでもあります。従って、法律的な理屈だけで解決できるとは思えません。しかし、法律的な視点から問題を俯瞰することは、物事の本質を捉えるために重要な作業だと思います。
18歳選挙権については、今年7月の参議院選挙から(6月以降に衆議院選挙があればその選挙でも)、18歳以上20未満の国民に対して新たに選挙権が付与されます。全国で約240万人といわれるこの若い有権者層の投票が、我が国の将来を運命づけるかもしれません。
有権者の拡大は、国民主権の趣旨に沿うものですが、選挙権とは権利であると同時に公務でもあります。新たに選挙権を取得する方々には、公務を適正に果たして頂けるものと期待します。
次に、一票の格差について、昨年11月、最高裁は最大格差が2.13倍だった一昨年12月の衆議院議員選挙について再び「違憲状態」判決を下しました。
「違憲」+「状態」とは、当該選挙における投票価値の不平等は憲法14条の平等原則違反(=違憲)だが、国会の自主的な解決(選挙区の区割り変更や議員定数の見直し等)のための猶予期間中(=状態)という意味です。いわば執行猶予付判決ですが、これは最高裁が国権の最高機関(憲法41条)である国会に対し、敬意と配慮を示したものと理解されています。確かに、ここ数年、最高裁の違憲状態判決を受けては国会が選挙制度を改正するというパターンが定着しています。
しかし、今年7月には、参議院議員選挙が予定されています。参議院議員選挙については、一昨年に最高裁が4.77倍の格差を違憲状態と判断し、これを受けた国会が、昨年、格差が3倍以内となる10増10減の改正を行いました。
しかし、憲法上の平等原則からみれば、一人が1票ではなく2票以上持つことは衆議院であれ参議院であれ、是認できないと思います。最高裁が同様の判断に至るなら、もはや執行猶予は付されず、実刑=「違憲」判決になるかもしれません。今年から初めて選挙に参加する有権者に失望させないよう、選挙制度の早期改正が必要だと思います。
夫婦同姓については、昨年12月に最高裁が「合憲」判決を下しました。しかし、10対5という僅差の合憲判断、しかも女性裁判官3名全員が「違憲」側です。将来的には多数派と少数派が入れ換わる可能性もあります。
国権の最高機関である国会は、最高裁の判断をただ待つのではなく、不利益を被っている方々の早期救済の観点から、自ら解決策を示すべきでしょう。
安保法について、司法界では、憲法と折り合いをつけることは難しいと理解されています。速やかに何らかの改正が行われないと、将来、違憲無効となる虞があります。
今年以降、この問題に裁判所の判断が求められたとき、裁判官が「その良心に従い独立して」(憲法76条3項)違憲審査権(同81条)を行使できるよう、静かに見守る必要があると思います。以上
(2016.01)