トピックス

「弁護士任官制度」 VOL312

 8月は台風が続け様に襲来しましたが、皆様には夏季休暇を十分おとり頂けたでしょうか。
 盛夏の愛媛県松山市において、日本弁護士連合会(日弁連)の、弁護士任官ブロック大会が開催されました。日弁連とは、各地の弁護士会の全国組織ですが、どういう訳か、日弁連の主催するイベントは、暑い時期には暑い地方で、寒い時期には寒い地方で開催されることが多いのです。とはいえ、松山市には道後温泉もあることから、夏季休暇を兼ねて参加した次第です。
 大会のテーマである「弁護士任官制度」とは、弁護士から裁判官を選任する制度のことです。
 アメリカやイギリス等のアングロ・サクソン系の国家では、ほぼすべての裁判官が弁護士から選任されます。これを一般に「法曹一元制度」と呼びます。これに対して、ドイツやフランス等のヨーロッパ諸国では、裁判官と弁護士は別個の職種で、裁判官は公務員として採用・養成され、退職するまで裁判所に勤務します。これを「キャリア・システム」と呼び、我が国では、戦前から、このキャリア・システムが採用されてきました。新憲法が公布され、アメリカ型の司法制度が導入された戦後も、キャリア・システムは維持されてきたのです。
 しかし、裁判所側でも、純粋培養された裁判官の集合体には脆い面があると認識されるようになり、199年代になると純血主義を止め、積極的に弁護士から裁判官を採用するようになりました。さらに司法制度改革の結果、2004年からは、弁護士会等から推薦を受けた候補者から裁判官を定期的に採用することになり、弁護士任官制度は既に定着した観があります。
 しかし、せっかく弁護士会等で選考・推薦されても、最高裁から採用される人数は毎年数名に過ぎません。弁護士の採用を始めてから25年間に合計116名の弁護士が裁判官として採用されていますが、裁判官総数(約3000名)の約4%程度に止まります。
 この点、例えばオランダは、キャリア・システムと弁護士任官制度を併用しており、現在では、裁判官の過半数が弁護士任官者と言われています。
 「法曹一元」を目標として掲げている日弁連は、当面、オランダ並みを目指して弁護士任官者数を増やそうとしています。しかし、裁判官を志望する弁護士が多いとは言えず、候補者の選考・推薦だけでなく、「発掘」が日弁連と弁護士会の重要な課題になっています。
 今回、松山市でブロック大会が開催されたのは、愛媛弁護士会をはじめとする四国の弁護士会の「発掘」作業を督励する意図があったと思います。
 ところで、弁護士、裁判官、検察官は等しく「法曹」と呼ばれおり、同業者と位置づけられています。しかし、当事者の代理人である弁護士と、中立的な裁定者である裁判官とでは、仕事の中身が相当異なります。弁護士がいきなり裁判官に就くのは容易なことではありません。
 そこで、弁護士任官志望者の助走期間として、週に1回程度、調停における裁判官の仕事を担当する「非常勤裁判官制度」が導入されています。全国各地の裁判所において、約120名の弁護士が、非常勤裁判官として裁判所の調停手続に関与していると言われています。以上

(2016.09)

インデックス

このページの先頭へ