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「憲法の役割について(その4)」 VOL315
アメリカの大統領選挙は、事前の世論調査とは反対の結果となり、大変驚かれたと思います。憲法改正に関する世論調査では、今のところ、賛成派が反対派を上回っているようですが、どこをどう改正するのか決まっていないこともあり、こちらも予断を許さない情勢です。
ご承知の通り、憲法を改正するためには、①衆議院と参議院の総議員の3分の2以上の賛成によって国会が発議し、②国民の過半数以上の賛成を得なければなりません(憲法96条)。
今年7月の参議院議員選挙により、衆参両院とも賛成派が3分の2以上を占めたことから、次は、改正案に国民の過半数の賛成を得られるか否かが勝負の分かれ目となります。
7月の選挙時点の世論調査では改正派が優勢で、選挙でも改正派である与党が勝ちました。その後、マスコミ、学者、日弁連等が続々と反対意見を表明したため、反対派が若干盛り返しているかもしれません。
日弁連では、前回ご紹介した10月の人権大会に続き、11月の司法シンポジウムでも立憲主義をテーマとして取り上げました。いずれも日弁連を代表する大型イベントですから、通常はテーマの重複を避けています。今年はあえて立憲主義を連続テーマとすることで、憲法改正反対に向けたメッセージを発信している訳です。もっとも「隠れトランプ」的な弁護士も結構多いので、組織として一枚岩とは言えませんが。
学者をみると、集団的自衛権の行使を認める安保法制は憲法の則(のり)を超えており、立憲主義を逸脱しているという見解が多数と思われます。先日の司法シンポジウムに出席した憲法学者は、現状を「立憲主義の底が抜けている状態」と表現していました。つまり、憲法違反状態ということです。
立憲主義の観点からは、憲法を優先して安保法制を速やかに改廃し、我が国の憲法秩序を回復しなければなりません(安保法制を維持するために憲法を改正するという考え方は立憲主義に反します。)。ところが、世間では安保法制の改廃を訴える意見が案外少ないようです。
先ごろ、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣する自衛隊に対し、安保法制により新たに認められた「駆けつけ警護」、すなわち、離れた場所にいる他国軍の兵士又は国連若しくは民間NGOの職員等が武装勢力に襲われた場合に、緊急の要請を受けて助けに駆けつける任務を付与する閣議決定がなされました。これに対して野党とマスコミの一部が批判しましたが、大した問題にはなりませんでした。
ただし、仮に、派遣された自衛隊が現地で駆けつけ警護を行った結果、何らかのトラブルに巻き込まれた場合には、自衛隊の任務の範囲について、世論が割れる事態になる可能性があります。この問題に関する国民の意思の帰趨が憲法改正の成否に結びつくかもしれません。以上
(2016.12)