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労働時間規制(その7)
これまで労働時間規制の厳格化の例をご紹介してきましたが、他方において、産業構造の変化や、働き方の多様化等に伴い、労働時間規制の弾力化が推進されていることも事実です。
例えば、製造業では、従前から繁忙期に連続操業や長時間操業を行わざるを得ない場合があるため、労基法で「変形労働時間制」が導入されています(32条の2以下)。
変形労働時間制とは、1日8時間1週40時間の原則を、一定期間の平均化で実現すれば足りるという考え方です。
また、ホワイトカラーや知的・専門的労働者の割合が増えている状況に対応するため「フレックスタイム制」(32条の3)や「裁量労働制」(38条の2)が創設されています。
フレックスタイム制とは、労働者が1か月等の単位期間の中で一定時間数を労働することを条件として、自己の選択する時間から時間まで労働することができるというものです。裁量労働制とは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について、事業場の労使協定に基づき実際の労働時間に拘わらず、一定の時間を労働したとみなすものです。
さらに、現在話題の「脱時間給制度」があります。政府が2015年4月に労基法改正案で導入しようとした、欧米で「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれている制度です。要するに、労働時間ではなく成果に基づいて賃金を払う仕組です。当時は野党が「残業代ゼロ法案」と呼んで強く反対したため導入が見送られました。ところが、今秋の働き方改革関連法案の中で、脱時間給制度が再提案されるようなのです。
政府案による脱時間給制度では、年収1075万円以上の金融ディーラーやコンサルタント等について、労働時間規制はもとより、時間外・深夜・休日の割増賃金規定も適用除外とします。
連合は、当初、政府に対し、企業に年104日以上の休日付与を義務づける修正案を示し、政府もこれを受諾する方向でした。ところが、連合が脱時間給制度自体を容認しない方針に変わったため、政労使合意は成立しない模様です。
脱時間給制度については、長時間労働を助長する、賃金水準を引き下げるといった危惧感が根強く主張されています。ただ、働き方が多様化している現在、時間で一律に拘束されるより自由に働いて成果の配当を受けたいと考える労働者が増えているようにも思われます。少なくとも今回の政府案は、対象を高収入の専門職労働者に限っており、連合の修正案が採用されれば、一応合理的な制度になるように思われます。
もっとも、脱時間給制度がいったん採用されると、やがてはすべての労働者に拡大適用されるのではないか、終身雇用制や年功序列制といった、既存の労働条件を破壊するのではないか等といった疑念もあるようです。今後の議論を見守りたいと思います。以上
(2017.08)