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労働時間規制(その8)

 前回ご紹介した「脱時間給制度」ですが、政府の現行案では、適用対象を年収1075万円以上の高度専門職(金融ディーラーやコンサルタント等)に限定していることから「高度プロフェッショナル制度」とも呼ばれています。
 他方で、この制度が適用される場合、労働時間規制だけでなく、時間外・深夜・休日の割増賃金規定も適用除外とされることから「残業代ゼロ制度」とも呼ばれています。
 脱時間給制度の創設と裁量労働制の適用拡大を含む労基法改正案は2015年4月から国会に提出されていますが、今秋の臨時国会において、残業時間規制法案と抱き合わせで成立する見込みです。
 しかし、裁量労働制の適用対象が今回拡大されるように、一旦、脱時間給制度が創設されると、将来、その適用対象が拡大される懸念があります。
 この点、日本弁護士連合会の調査によると、米国では1938年から脱時間給制度(ホワイトカラー・エグゼンプション制度)が導入されています。2004年時点で、同国の全労働者の約2割にあたる約2553万人の労働者に同制度が適用されており、そのうち約6割が年収約624万円以下とのことです。
しかも、この制度の適用労働者と非適用労働者の労働時間を比較すると、前者の方が長時間労働を強いられているとの調査結果が報告されています。
 従って、我が国においても、脱時間給制度が一旦導入されれば、将来、医師や弁護士等の高度専門職(労基法第14条)や企業の企画調査部門の職員等を経て、やがて一般労働者にまで拡大適用されることになると言わざるを得ません。
 そこで、脱時間給制度の導入にあたっては、少なくとも、労働時間の上限規制や休憩や休日の確保といった「働かせ過ぎ防止策」が必要不可欠となります。
 政府案では一定の防止策も講じられる見込みですが、過労死が社会問題化している現状を踏まえ、政府案の防止策で十分かどうか、再検討する必要がありそうです。
 なお、高額年俸で雇用されている医師や弁護士等の高度専門職については、そもそも現行法の労働時間規制の適用があるのかどうかが争われて来ました。
 この点、医師については労働時間規制の枠を超えた活動が求められており、時間数に応じた賃金は本来なじまないという理由から、勤務医の時間外賃金は年俸に含まれると判断した裁判所もありました。
 しかし、本年7月、最高裁判所は、労基法上の時間外賃金は他の賃金と明確に判別できなければならないという前提に立ち、勤務医の年俸に残業代が含まれるとの合意があったとしても、年俸のどの部分が時間外賃金に該当するのか明らかになっていない場合は、時間外賃金が支払われたとは言えない、という判断を下しました。
 この最高裁判決について、法律専門家の間では、概ね妥当と評価する意見が多いと思います。ただし、その一方で、この判決の結果、勤務医が脱時間給制度の次の候補に上がるのではないか、とも言われています。以上

(2017.09)

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