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『裁判員制度10周年(3)』

 前回ご紹介した通り、裁判員制度において、裁判員が負っている「秘密」を守る義務(守秘義務)の対象となるのは、①評議の秘密と、②裁判員の職務を行う際に知った秘密です。
 まず、①評議の秘密とは、裁判員と裁判官が参加する「評議」という会議で議論された内容のことです。
 つまり、評議の中で、裁判官や裁判員がどのような意見を述べたとか、誰と誰のどのような意見が対立したとか、多数決を実施した場合の票数であるとか、およそ評議の参加者でなければ知り得ない情報です。万一このような情報が漏洩すると、裁判員や裁判官が評議で自由に発言できなくなるので、この情報は秘密として保持されなければなりません。
 また、②裁判員の職務を行う際に知った秘密とは、評議以外の裁判員の職務を行う際に知った、特に秘密として保持しなればならない情報を言います。
 例えば、裁判員の氏名、刑事事件記録に記載されている被害者や事件関係者のプライバシー情報等です。裁判員は裁判官、検察官、弁護人等の法曹三者と同様に、これらの情報を秘密として保持しなければなりません。
 裁判員経験者にとって守秘義務は重い課題ですが、他方において、公開の法廷で見聞きした情報等、守秘義務の対象とならない情報については、積極的に発信することが期待されています。
 各地の裁判所のHPには「裁判員経験者意見交換会」の議事録が公表されています。法曹三者の委員の他、毎回数名の裁判員経験者が選ばれ、各人の体験談が公表されています。参加した法廷における進行や当時の自分の感想等が詳細に発言されています。
 裁判員経験者の私的な団体や交流会も各地に存在しています。東京には裁判員経験者、弁護士、臨床心理士等によって設立された「裁判員経験者ネットワーク」という団体があります。非公開の「裁判員経験者交流会」というグループワークを中心として裁判員経験を共有化するための活動をしています。この団体は「守秘義務市民の会」という研究会も定期的に開催し、裁判員経験者の守秘義務に関する心理的負担の軽減に取り組んでいます。
 また、東京には「裁判員ラウンジ」という公開されている交流会もあります。誰でも参加可能で、大学の教室等において開催されています。裁判員経験者だけでなく法曹関係者、報道関係者、大学生、一般市民等多岐にわたる参加者が集まり、裁判員制度の実情や課題について議論されています。
 裁判員裁判が施行10周年を迎え、これまでに約9万1000人の市民が裁判員や補充裁判員として参加してきました。裁判員の辞退率や欠席率の上昇を防ぐためには、裁判員経験者が自己の体験を周囲に積極的に発信することが必要と思われます。
 

(2019.08)

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