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『地域司法について(3)』
今年の東京の8月は雨が少なかったせいなのか、拙宅の玄関脇のさるすべりが、お盆過ぎにようやく開花しました。
今回は、8月22日に、福岡県北九州市で総会が開催された、北九州地方・家庭裁判所本庁昇格期成会についてご紹介します。
同期成会は、北九州市に設置されている福岡地方裁判所小倉支部と同家庭裁判所小倉支部の「本庁昇格」を実現するため、平成11年に設立された団体です。北九州市長を会長、北九州商工会議所会頭と直方市長を副会長、県副知事や周辺市町村の首長等を理事とし、顧問には地元選出の国会議員・県議会議員が名を連ねています。同期成会の総会には、これらの役員のほか、北九州支部所属の弁護士や、日弁連から派遣された私共も多数参加して開催されました。
小倉支部の管轄地区は北九州市とその周辺自治体ですが、管内人口は合計100万人を超えています。また、民事通常訴訟事件の新受件数もほぼ毎年1000件を超えています。ところが、北九州地域から本庁である福岡地方裁判所までは新幹線経由で約50分、在来線経由で約2時間かかるので、この地域の司法にとって、小倉支部の役割が極めて重要となるのです。そのため、小倉支部では、本庁と全く同様に民事・家事・刑事事件が取り扱われており、裁判員裁判や労働審判まで行われています。
しかし、それでも北九州地域が小倉支部の「本庁昇格」を目指す理由ですが、まず、支部では行政事件の取り扱いができないことが挙げられます。公害・環境訴訟から、生活保護不支給決定取消訴訟まで、行政処分を争う訴訟が北九州地域ではできないのです。
次に、簡易裁判所民事事件の控訴事件が本庁でのみ取り扱われることも挙げられます。訴額の低い簡易裁判所の民事事件のためにわざわざ本庁まで行くのでは割が合わず、控訴を断念する要因(裁判を受ける権利の侵害)になると言われています。
さらに、契約書の合意管轄裁判所として支部を指定しても、その指定に法的効力が認められないことが挙げられます。北九州地域の企業や個人の契約上の紛争については、契約に小倉支部と定めていても、改めて合意しない限り本庁に行かねばならないという問題があるのです。
これらの問題があるため、北九州地域では大正時代から小倉支部の本庁昇格運動が始まっています。平成11年には上記期成会が設立され、北九州地域が一丸となって小倉支部の本庁昇格を目指すことになりました。
全国的に見て支部の本庁昇格を目指している地域は北九州地域と東京地方裁判所立川支部を抱える多摩地域だけです。管内人口、事件数、本庁との距離等を踏まえると小倉支部と立川支部の本庁昇格には十分合理性があると思います。
(2019.09)