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『裁判手続のIT化について(5)』

 現在、裁判手続のIT化については「民事裁判手続等のIT化研究会」で継続的に検討されています。既に議論は報告書案の作成に入っているようです。
 HPで公開されたIT化研究会の報告書案をみると冒頭に「オンライン申立ての義務化」という項目が挙げられています。これは、以前ご紹介した通り、書面で行われている訴状等の提出を、電子情報によるオンライン申立てに限定するべきかどうかという問題です。
 この点については、オンライン申立ての原則義務化の「甲案」、オンライン申立ての一部(専門職のみ)義務化の「乙案」及びオンライン申立てを任意とする「丙案」に分かれています。
 報告書案には、この原稿の執筆時点で「P」と表示されているので、IT化研究会ではまだ議論中のようです。
 しかし、次に続く項目の「訴訟記録の電子化」の注書には、オンライン申立ての義務化と訴訟記録の全面電子化は必ずしもリンクしないと断りながら、仮に乙案等を採用したとしても、訴訟記録の全面電子化を目指すべきであると明記されています。
 そうだとすると、裁判所では、当事者から提出された訴状や準備書面等を使って訴訟記録を作成するので、仮に丙案のように書面で提出することを認めると、提出された書面を電子化する手間と費用を裁判所が負担しなければならず、裁判所が丙案を認める余地は少ないように思われます。
 これに対して、弁護士や弁護士会では、市民の裁判を受ける権利を従前どおり保障する観点から、丙案すなわちオンライン申立てだけでなく書面での提出も認めるべきだという見解が有力なようです。
 もっとも、丙案を支持する見解の底流には、弁護士は法律の専門家ではあってもITの専門家ではないから、オンライン申立てに義務化されてはかなわないという抵抗感があると思います。
 いずれにしても、オンライン申立ての義務化を実現するためには法律を改正する必要があり、直ちに義務化されることにはなりません。しかし、民事裁判手続の効率化のため、丙→乙→甲と徐々に義務化が進むことは不可避と思われます。
 ところで、オンライン申立ての義務化に伴って問題となるのは、代理人をつけずに裁判に臨む本人訴訟において、オンライン申立てができない当事者の裁判を受ける権利をどのように確保するのかという点です。
 日本弁護士連合会は9月12日に「民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針」を定めましたが、そこでは、裁判所や日本司法支援センター等の公的機関によるサポート体制の充実度との調整を図りつつ、IT化の実施時までに「本人サポート」の具体的な中身を検討するという程度の認識です。
 IT化に対応できない「弁護士サポート」の方が直近の課題なのかもしれません。以上
 

(2019.10)

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