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『カルロス・ゴーン事件について(1)』
年末年始、大きなニュースとなったのは、刑事被告人で保釈中だったカルロス・ゴーン氏の日本脱出でした。当初は「まさか」とか「どうやって」とかいう興味本位の報道が多かったのですが、逃亡ルートがほぼ解明されると、次はゴーン氏の国外逃亡を許した責任問題や再発防止策へと論点が移っているように思われます。
しかし、当初からゴーン事件にはある種のうさん臭さが付きまとっていました。その上、ゴーン氏には日本最強といわれる優秀な弁護団がついていました。長期裁判に耐えられる豊富な資金力もありそうでしたので、裁判で無罪になる可能性もあると噂されていました。
それにもかかわらず、なぜゴーン氏ほどの国際的な企業経営者が、裁判という正規の方法ではなく、国外逃亡という違法でリスクの高い方法を選択したのでしょうか。
残念なことですが、ゴーン氏の心底に日本の刑事司法制度に対する強い不信と深い絶望があったからではないかと推察されるのです。
実際、レバノンに逃れたゴーン氏は、海外メディアに対して日本の刑事司法制度を厳しく批判するコメントを繰り返しています。多くの海外メディアがゴーン氏の批判に肯定的な反応を示していますが、日本のマスコミ報道は概ね冷ややかで、引かれ者の小唄の類の扱いです。
しかし、ゴーン氏が指摘しているように、日本で逮捕勾留された刑事被疑者・被告人は、弁護士の立ち合いもないまま連日長時間に渡り取り調べを受けなければなりません。そして、自白しない限りほぼ保釈も認めてくれません。
いわゆる「人質司法」といわれるこの現状は、少なくとも先進国と呼ばれる国々の国際水準からみると、著しく逸脱していることは確かです。
ゴーン氏とほぼ同じ時期にカナダで逮捕勾留されたファーウェイの中国人副社長は、否認していたにもかかわらず逮捕勾留から10日で保釈されたこととはあまりに対照的です。
そして、当該中国人は、保釈されても逃亡せずにカナダに残り、カナダの裁判所で正々堂々と争っているのです。仮にゴーン氏が日本ではなくカナダで逮捕勾留され、その後保釈されていたとすれば、彼は国外逃亡というリスクの高い手段を選択したでしょうか。
この点、そもそもカナダのようにGPS発信機を装着させていれば逃亡できなかったという指摘もありますが、彼が今回雇ったプロの手にかかれば、どうとでもなるように思えます。
いずれにせよ、ゴーン氏ほどの人物が国外逃亡という無謀な選択をせざるを得なかったという事実そのものが、日本の刑事司法手続に対する国際的な不信感を増幅しているように思われるのです。以上
(2020.02)