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『裁判官の弾劾裁判について(2)』

 9月になり、中秋の名月が満月にあたると盛り上がっているうちに、いつの間にか、過ごし易い気候となりました。
 前回ご説明した、岡口基一判事のSNS上の不適切な投稿等が、当事者や遺族等関係者の感情を傷つけたことを理由とする弾劾裁判については、衆議院議員の任期満了が10月21日であることから、総選挙を経た新しい国会議員によって審議される見込みです。
 ところが、この間、各地の司法関係団体が、岡口判事の弾劾裁判問題を、様々な角度から議論しています。
 例えば、兵庫県弁護士会は、8月24日「弾劾裁判所に対し、岡口基一裁判官を罷免しない判決を求める会長声明」を発出しました。
 概ね、弾劾裁判所が罷免の決議を宣告した場合、裁判官は失職し法曹資格も失うことになるので、裁判官弾劾法上、罷免されるのは著しく重大なケースに限られるところ、過去に罷免判決が出された事案は、収賄や公務員職権濫用、児童買春、ストーカー行為、盗撮等の犯罪に該当する行為の場合であり、岡口判事の行為は、先例程の重大なケースではないという論旨です。
 確かに、裁判官が弾劾裁判で罷免されると、異議申立もできず、退職金もなく失職し、法曹資格もなくなり、弁護士資格を回復するまでに最低5年必要です。岡口判事のSNS等における表現が、遺族等の感情を損なったことは事実だとしても、そこまでの厳罰を科すべき「著しい」非行だったかどうかは疑問の余地があります。
 他方で、この声明文や一部の憲法学者グループの意見は、裁判官の「表現の自由」と、他の裁判官の表現の自由に対する委縮効果を、岡口判事を罷免するべきではない理由として挙げています。
 この点、そもそも裁判官は公務員ですが、その「表現の自由」は、他の国民と同様に認められるべきだと考えます。
 しかし、遺族等の感情を逆なでするような岡口判事のSNS等における表現は、民法上の不法行為に該当する可能性があり、また、刑事上の名誉毀損罪や侮辱罪に該当する虞すらあります。
 当該表現が、民事であれ刑事であれ、違法と評価された場合における事後的な処罰が、発言者の表現の自由を侵害するという考え方については、もう少し説明が必要かもしれません。
 また、他の裁判官の表現の自由に対する委縮効果という論点についても、いささかピンときません。
 普通の裁判官は、他人の名誉を毀損したり、他人を侮辱したりする表現をしようとは考えていないと思います。違法な表現と認定された場合の事後的な処罰が、なぜ他の裁判官の表現の自由に対する萎縮効果を持つことになるのか。裁判官とはそこまでナイーブな存在なのかもしれませんが。以上
 

(2021.10)

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