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『韓国の裁判官制度について』

 4月になり、かなり暖かくなったことから、日本弁護士連合会が主催した、韓国の裁判官制度の調査団に参加し、ソウルに行ってきました。
 現地では、大法院(我が国の最高裁判所に相当)、大韓弁協(日弁連に相当)、法曹倫理委員会及び大手法律事務所等を訪問しました。
 わが国のほとんどの裁判官は、司法研修所を卒業すると直ちに裁判所に採用され、定年退官するまで勤めあげるプロパー組です。これに対し、最高裁に附属する委員会の選考を経て弁護士から裁判官に選任された中途採用組もいます。前者の裁判官採用方法をキャリア・システム、後者を弁護士任官といいます。
 日弁連は、弁護士任官を積極的に推進し、弁護士から裁判官に採用されるアメリカ型の「法曹一元」を実現しようとしていますが、今のところ、弁護士任官の採用数は低迷したままです。
 かつては韓国もキャリア・システムでしたが、今世紀の司法制度改革により、法曹一元を導入しました。韓国で法曹一元を導入できた理由は、裁判官に対する国民の強い批判と、大統領のリーダーシップがあったからだと言われています。
 すなわち、韓国では、裁判官の社会的地位が非常に高いために、成績が優秀な人材はこぞって裁判官を目指す状態でした。また「前官礼遇」といって、現役裁判官は裁判官を辞めて弁護士になった先輩方に有利に裁判を進めるといわれてきました。さらに、一般市民が元裁判官の弁護士に仕事を依頼するためには非常に高額な報酬を積まなければなりませんでした(「有銭無罪・無銭有罪」)。
 そこで、現在、韓国では、法律によって、裁判官になるためには5年以上の弁護士等の職務経験期間が必要とされています。裁判官に社会常識を身につけさせ、併せて、退官後の結びつきを薄めさせようとしたのです。また、この職務経験期間は将来10年間に延長されることになっています。
 もっとも、今回の調査で、職務経験期間が5年間のまま据え置かれていたことが分かりました。10年間も弁護士業務に従事して、そこから裁判官を目指す者が少ないという説明でした。
 また、この職務経験期間には、裁判所でロー・クラーク(調査官)として勤務できる3年間も含まれます。そこで、初めから裁判官を目指す層は、3年間調査官として裁判所で勤務し、残り2年間を大手法律事務所で勤務するという経歴をたどることが多いそうです。しかし、裁判官が2年間弁護士の職務経験を積む制度はわが国にもあるので、両国の制度の違いは大きくないともいえます(韓国は全員に強制、日本は希望者)。
 韓国では、職務経験期間を5年間に固定する法案まで提出されましたが、国会で否決されてしまいました。そこで、現在は、職務経験10年時代に備えるため、様々な企画が検討されているそうです。
 我が国でも、裁判官制度の改善に向けた取り組みを再び始める時期かもしれません。以上
 

(2023.05)

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