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『技術の進歩と司法』

 日本弁護士連合会では来年11月2日に第30回司法シンポジウムの開催を予定しています。まだ1年以上も先の話ですが、昨年12月から運営委員会が設けられ、月1回のペースで準備作業が行われています。4つのテーマがあり、私は全体の事務局長として4つのテーマの議論を相互に関連付ける作業をしています。4つのテーマはいずれも興味深いものですが、今回はその一つである「技術の進歩と司法」をご紹介します。
 民事裁判手続のIT化については、導入に際して様々な議論はありましたが、実際には、新型コロナの蔓延とともに着実に進んできたといえます。従前は裁判所で行われてきた弁論準備期日のほとんどが、現在はウエブ会議上で行われています。
 このテーマを議論する部会ではIT技術を司法手続へのアクセス支援と位置づけ、積極的な活用を検討しています。
 これまで弁護士会は裁判所に対して裁判官が常駐していない過疎地の裁判所支部に裁判官を常駐させるように求めてきました。裁判官が常駐していない支部の事件は本庁の裁判官が支部に出張して処理しています。支部の事件数や本庁からの距離によって違いはありますが、支部への出張回数は概ね週1、2回程度、支部によっては月1回程度のところもあり、支部事件が滞留する原因と言われています。しかし、ウエブ会議を利用すれば、本庁の裁判官が本庁にいながら支部の裁判手続を行うことができるのです。
 もっとも、現在これが実現していないのは支部の事件記録が支部にあるからだと思います。しかし、今後、オンライン申立が義務化されれば、事件記録はすべて電子化され、本庁の裁判官がパソコンを経由して、いつでもどこでも支部の事件記録にアクセスすることが可能となります。もとより、本来、支部にも裁判官の常駐は必要ですが、ウエブ会議を利用できれば、支部事件の滞留は大幅に改善できると思います。
 この部会では司法アクセス支援としてODRも検討されています。ODRとは裁判手続外の調停などの紛争処理手続(ADR)をオンライン上で実施するものです。
 ADRには裁判手続と比べて①手続が柔軟である、②簡易・迅速である、③非公開である、④紛争分野の専門家が仲介できるなどのメリットがあるといわれています。これをオンラインで実施することで、さらに⑤時間と場所の制約がなくなる、⑥非対面で実施できる、⑦多様なコミュニケーション手段を利用できるなどのメリットが加わります。
 法務省はODRにより「スマートフォンが1台あれば、いつでもどこでもだれでも紛争解決のための効果的な支援を受けられる社会を実現」できると説明しています。以上
 

(2023.08)

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