8月に入り、地球温暖化の影響なのか、全国各地で猛暑と台風による大雨や強風が繰り返されています。
さて、以前に成年後見人の「死後事務」をご説明申し上げましたので、今回から、一般的な「死後事務委任契約」についてご紹介したいと思います。
死後事務委任契約とは、本人(委任者)が第三者(受任者)に、自分が亡くなった後の医療、葬儀、納骨、埋葬等の諸手続に関する事務(以下「死後事務」と総称します。)の処理を依頼する委任又は準委任契約をいいます。
家族関係が次第に希薄化し、いわゆる「おひとり様」が増加してきたことから、近年、死後事務の委任相談が増えています。ネットで検索してみても多くの業者が同様の契約を宣伝しています。
しかし、死後事務委任契約の歴史は浅く、本人の意向に沿って死後事務を処理することは法律上それほど簡単なことではありません。
まず、民法653条第1号は、委任者又は受任者の死亡を委任契約の終了事由に掲げています。委任契約が当事者間の信頼関係に基づくものだからです。したがって、委任者が死亡すると本来は委任契約も終了するのです。
もっとも、同号は任意規定と理解されていますので、当事者が反対の意思を表示したときは、当事者の死亡によっても委任契約は終了しないことになります。そこで、死後事務を委任する場合、つまり、委任者の死亡後も契約は終了しないことが予定されている場合、民法の原則が適用されないことになるのです。
とはいえ、委任者の死亡後も契約は終了しないことが明示されていない場合もあり、委任者の死亡後における契約の存続が争われることがあります。
かつて、入院中の患者Aが、友人Bに対し、A名義の預金通帳を渡し、そこから入院や埋葬の費用、世話になった家政婦Cへの謝礼の支払いを委託したので、Aの死亡後にBがAの預金から上記費用と謝礼を支払ったところ、Aの相続人Dが、Bに対し、通帳及び残金の返還並びにCへの謝礼の支払いが不法行為に当たるとして損害賠償を請求したという事件がありました。
高裁は、民法の原則どおりAの死亡によりAB間の委任契約は終了するので、BはDに通帳と残金を返還せよ、Cへの謝礼の支払いは不法行為にあたるので損害賠償せよと判断しました。
これに対し、平成4年9月22日最高裁判決は、AB間においてAの死後事務を含む委任契約が成立した場合「当然に、Aの死亡によっても右契約を終了させない合意を包含する」と判示して、Bの不法行為の成立を否定しました。また、通帳と残金の返還についても、AB間の合意が負担付贈与だったかどうかを含めて判断を高裁に差し戻しました。
なお、実務的には、誤解が生じないよう、委任者が死亡した場合でも契約は終了しないことを明記するのが普通です。以上