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『死後事務委任契約について(2)』

 9月に入り、お彼岸までは猛暑が続きました。拙宅の紅白2本の百日紅もまだ花をつけていて、例年通り、毎日落花の掃き掃除に追われています。
 さて、前回は一般的な「死後事務委任契約」の有効性についてご説明致しました。死後事務委任契約であることが契約上明示されていれば、委任者の死亡によって契約は終了しません。
 しかし、前回ご紹介した裁判例のように、死後事務委任契約の履行を巡って、受任者と委任者の相続人との間で紛争が生じる場合があります。
 この点、民法651条1項は、委任契約は各当事者が「いつでも」解除できると規定しています。そこで、死後事務委任契約の委任者の地位を承継した相続人は「いつでも」この契約を解除できるという見解も成り立ちます。
 しかし、平成21年12月21日東京高裁判決は、死後事務委任契約において、委任者は自己の死亡後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているので、契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した相続人らにとって履行負担が過重であったりする等、契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り「委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する」と判示しました。
 確かに、委任者の相続人が死後事務委任契約を「いつでも」解除できると解すると、前回ご紹介した最高裁判決が、死後事務委任契約には委任者の死亡によっては終了しないとする合意が含まれていると判示した趣旨にそぐわないと考えられます。
 また、世間では家族関係が希薄化し、いわゆる「おひとり様」用の契約として死後事務委任契約が作成されています。しかるに、契約作成時点では想定されていなかった委任者の相続人が突然現れて「いつでも」この契約を解除できるとすると、委任者の意向が損なわれるとも考えられます。
 そこで、東京高裁は、①契約内容が不明確又は実現困難か、②契約上の地位を承継した相続人らにとって契約の履行が過重な負担か、という二つの判断基準を設けて、契約の解除を合理化できるかどうかを判断しました。
 要するに、東京高裁は、当事者は「いつでも」委任契約を解除できるという民法の原則を、死後事務委任契約には適用しなかった訳です。その代わりに、東京高裁は、上記①と②の判断基準に沿って当該事案を検討し、相続人に契約解除を認めるべき特段の事情は存在しないと判示したのでした。これは民法の原則と例外を逆転させたことになります。
 なお、実務では、通常、相続人の解除制限を契約上明記しています。以上
 
 

(2024.10)

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