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『死後事務委任契約について(3)』
10月になり、涼しくなったので、友人達と恩がある方の墓参りに出かけました。最近はコロナの影響で親族だけで葬儀を行うことが多いため、葬儀に立ち会えなかった方の墓参りに行く機会が増えています。
さて、今回は「死後事務委任契約」と「遺言」の関係についてご説明したいと思います。
従前、死後の問題は遺言書の作成で解決してきました。しかし、そもそも遺言書とは、遺言者が相手方を特定することなく単独で作成し、遺言者の死後に効力を発生させるという特殊な法律行為なのです。そのため、民法上遺言によって法的効果が生じる事項(遺言適格事項)は限定されています。
例えば、遺言書でよく見かける祭祀承継者の指定は遺言適格事項ですが、付随する葬儀や埋葬方法の指定は付言事項に過ぎず法的効力は生じません。
他方で、死後事務委任契約では、遺言適格事項以外の事項についても契約として法的効力を生じさせることができます。そこで、近年では、遺言書と死後事務委任契約の両方を作成する方が増えています。
ただし、遺言書と死後事務委任契約の両方を作成する場合、お互いの内容が矛盾しないように注意する必要があります。それでは、仮に、遺言書で示された本人の意思と死後事務委任契約の内容が抵触する場合、どちらが優先するのでしょうか。
この点、民法1023条第2項は、前の遺言書と後の生前処分その他の法律行為とが抵触する場合には、後の法律行為で前の遺言書の内容を撤回したものとみなすと規定しています。
令和3年2月25日函館地裁判決は被相続人Aの遺言により、Aの自宅の土地建物を相続した長男Bが、Aの自宅の庭を取り壊して更地にした三男C夫妻に対して不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。
この裁判で、C夫妻は、Aの遺言書の作成後、Aとの間で庭を取り壊して更地にするという内容の死後事務委任契約を締結したので、契約に基づく正当な行為だったと主張しました。
函館地裁は、AC間の死後事務委任契約の成立を認め、Aの遺言書とその後に締結されたAC間の死後事務委任契約の内容が相反し、かつ、受任者が遺言書の内容を認識していた場合、死後事務委任契約が遺言書に優先するという解釈は、被相続人Aの最後の意思の実現に資するという理由から、C夫妻の不法行為を否定しました。
要するに、死後事務委任契約が民法1023条2項の「後の法律行為」に該当すると判断した訳です。
もっとも、この事案の控訴審である令和3年9月7日札幌高裁判決は、AC間の死後事務委任契約の成立自体を否定し、C夫妻による不法行為の成立を認めたので、結論は反対になりました。以上
(2024.11)